初めてのキスを貰ったのは、僕が尊敬するあの人でした。





+大人への階段





頭は全然働かなくて、戦慄く唇でやっとのことで紡ぎ出せたのは、間抜けな言葉一つだった。


「ど、どうしてです・・?」


すると目の前の彼は、同じ年なのに僕なんかよりとてもかっこよく笑った。

どきり、と一つ心臓が鳴って、僕は思わずユニフォームの上から心臓を掴んでしまう。

腰が抜けて地べたに座ってしまっている僕を覗き込むように、彼の顔が近づいてくる。

いつも思っていることなのだけど、やっぱり越前くんはかっこいい。

どうしてこんなにも違ってしまうのだろうと、彼を見ていると少し落ち込むけれども、

その度に彼が僕に勇気をくれるから、僕は今ここに立っていられる。


す、っと近づいてきた越前が不敵な笑みを浮かべる。


その笑顔に目を奪われながら、掴んでいたユニフォームを更に強く握り締めた。

破れてしまったらどうしようと心の隅で思ったけれども、

そんなことを気にする暇もないくらい、心に湧き上がる思いを押さえるのに必死だった。

この気持ちは何だろうと、考えたこともなかったけれど。

どうしてだろう。

尊敬とは違う。

何だか、苦しい、

けれども切なく、


甘い


感じがする。




越前くんの綺麗な笑顔に呆けていると、気がついたら越前くんの手が頬に添えられていた。

何をされているのだろうと理解する前に、

大人へと登りかけのけれどもまだ少年っぽさを残した声が僕の耳元に触れる。



「本当は、コドモなんて興味ないんだけど」



ただ目を見開いて、彼の一挙一動を目に焼き付ける。

彼は頬から手を滑らせて、顔のラインをなぞり、顎を掴む。

上に向かされた顔は、真っ直ぐ彼へと固定されて。

視界の中いっぱい、越前くんのことしか見えなくなる。

彼の背の向こうに真っ白な太陽が見えて、きらきら光る越前くんはやっぱりかっこいいと思った。



「アンタの成長する姿を見たくなったんだ」



なんて、甘い声で囁かれる。

何を言われているんだろうか分からなくて、ただ必死に越前くんだけを見つめる。



「俺があんなことを言ったら、アンタ、素直に信じただろ?」



す、と肌を撫でられて、体が僅かに竦む。

こういうの、美人の迫力というんだろうか。

何処も押さえつけられているわけではないのだけれども、

視線一つだけで身動きすら取れない。



「一生懸命俺に追いつこうとして、可愛いよね」



クスリ、と越前くんは人の食えない笑みを浮かべる。

初めて会った時は、すごい無愛想だとは思ったけど、

本当はこんな風に笑ってくれるんだと知って、こんな状況だけれども嬉しかった。



「だから・・」



あ。

と、気づく前にさっきの光景がフラッシュバックしてくるようだった。

唇に触れる感触。

太陽にも負けぬほどのその熱。

何秒そのままだったのか分からないけど、

気がついたらさっきと同じ位置で越前くんが不敵に笑っていた。



「コドモは趣味じゃないから」



越前くんはまた、さっきと同じことを言う。



「だから早く成長してよ」



そう、言い残して。

越前くんは僕の頭を一つ撫でて。

この前よりも少し広くなった背中を向けながら歩いていった。



僕はただ、呆けたまま。

ただ、あの背中に近づこうと、それだけを思いながら、

彼に触れられた唇に手を伸ばした。