例えば、ずっと思い描いていた想像に酷く近い、 まるで夢の中からそのまま抜け出したんじゃないかと思うほど、綺麗な人が目の前に現れたとき。 大抵の人はどんなリアクションを取るんだろう。 +鮮明 例えばそれが、自分が倒すべき敵であった場合は。 越前は逸る気持ちと高揚感を抑えることができずに、ただその場に立ち尽くしていた。 初めて会ったのは、青春学園に入部して何回目かの公式戦での時だ。 一目見た瞬間に、この世の全てのものが動きを止めた。 まるでそこには時間など存在しないかのように、自分と彼以外の全てがその瞬間に無くなった。 気がついたら視界に入っているのは彼のことだけで、他の何物も意識の中に入ってはいなかった。 テニスプレーでも、テニスコートでも、テニスグッズでもない、 単なる人の容姿というものにあそこまで気を取られるということは、人生で初めての出来事だった。 それほど彼の存在は自分には鮮やかで、印象的であった。 大人しめな容姿は物静かそうであるが十分に人目をひきつけ、 白い肌に落ちる漆黒の髪の毛は絹のようであった。 光を映す瞳は漆黒で、けれども硝子のように綺麗で、 顔を彩る唇はまるで熟れたように赤かった。 これこそ自分が望んでいた、ずっと理想として夢にまで出てきた人であったのだ、と。 越前は、ほとんど思考を止めてしまった頭で考える。 目には彼しか映ってはおらず、そして彼から視線を逸らすことなどできなかった。 まさに、大和撫子。 そんな言葉が頭に浮かんだ。 越前の母は外国人ではないのだけれども、外国人のような性格をしている。 だからだろうか、理想とする人はいつも、黒髪の、おしとやかな、大和撫子だった。 目も眩むような高揚感。 思わず競りあがってくる熱に喉が焼ける。 抑え切れない鼓動は、近くにいる人間に聞かれてしまいそうなほどだった。 あの人が、欲しい。 そう思ったのは、実に簡単な答えだった。 本能の欲するままに出した、実にシンプルで直接的な、欲求。 例えどんな手を使っても、どんなに時間がかかっても。 汚い手を使って、巧妙な手を使っても。 必ず彼を手に入れると。 誓った。 あれから、一年。 背は彼よりまだ小さいけれども、ほとんど同じくらいにはなった。 敵同士だった関係も、今では時々会って、話をするくらいの関係にまでなった。 隣で共に歩くことができる。 それが何よりの喜びで、そして大いなる進歩であると感じた。 焦って彼に迫るというようなことはしなかった。 我ながら慎重な判断だったと今では思う。 見かけより随分といい性格をしていたあの人は、 きっとあの時の自分に想いを告げられても、受け止めてはくれなかっただろう。 早く大人になりたい、 ――しかしただそれだけでは一つ上行く彼を捕まえることなどできないと知っている。 この小さな体に見合うだけの小さな手で掴めるだけの包容力しか自分には、ない。 だからこそ、早く大人に、 ――この手であの人を捕まえて、包み込めるようになるくらいに大人に。 そうなったときに初めて、あの人は自分のことに初めて気づいてくれるのだろう。 今、彼は自分の隣を歩く。 その姿は少しだけ他人を警戒する、普段の彼の姿ではなく。 不動峰のメンバーと行動を共にしている時の、僅かな柔らかさを持った彼の姿へと変貌を遂げた。 自分への警戒心が緩んでいる証拠。 一年間、彼へと、罠を張り、計画を練り、段々と近づいていった証だ。 貴方は気づいていないんだろうけど。 次第に貴方は、俺の腕の中に捕らわれてきている。 多分そう遠くない未来に、貴方が完全に俺の腕に捕らわれるのだろう。 そう考えるだけで愉悦と興奮で思わず笑みが零れる。 隣を歩く貴方の腕を取り、突然自分の方向へと引いた。 軽い体は抵抗もなくこちらに寄ってくる。 「深司サン、どっか寄っていきましょうよ」 なんて、わざと耳元で囁く。 貴方は気づいてなんかいないのだろうけど。 確実に。 俺と貴方との距離は縮まってきている。 今もそう。 突然腕を引かれたにも関らず、貴方は文句一つ言わない。 そして。 貴方は僅かに耳を赤く染めるだけだ。 「いいよ・・」 そう答える貴方に、俺は満足の笑みを零す。 いつか俺が貴方の身長を追い越して、 貴方を腕の中に捕らえるまで、もう少し。 だからそれまで待っていてね、愛しい人よ。 |