この容姿のことを色々な人達が影で囁いているのを知りながらも、ワタシは付かない振りをしていました。





+ ありのまま





休み時間に本を読んでいると必ず仁王君が近寄ってくるのが最近の日課になっていました。

仁王君は何も言わずにワタシに近づいて来ては近くの空いている席に座ります。

そして、そこで思い思いのことをするのです。

適当にワタシのノートを覗いたり、机に腕をついて眠っていたり。

そして彼の気が向いたときにワタシにちょっかいをかけてきます。

それまではワタシは彼の行動をなんら気にすることはないのですが、

本に没頭しているところを邪魔されて初めて彼の存在に気付いたように顔を上げます。

そしてワタシはパタリと本をとじ、その時初めて視線を合わせるのです。



「どうかしましたか、仁王君?」



机に懐いている仁王君の視線に合わせるように、少しだけ首を傾げます。

覗き込むように視線を合わせると、強い視線がワタシに向けられます。

仁王君は真っ直ぐワタシの目を覗き込んだまま、すっと手を伸ばしました。



「比呂くんは髪形変えたりせんの?」



その手はワタシの前髪に触れ、さらりと優しく撫でます。

まるで春風のような仕草に、ワタシは安堵感に胸がいっぱいになります。

指先で髪を一房掴み、弄ぶ仕種をワタシはじっと見つめていました。

ワタシに好んで話しかけてくる人は少ないのですが、

それでもこの容姿がクラスメイトたちの間で話題になっていることくらい知っていました。

けれど好奇心の塊のような人達に答えを与えようなどとは思いもしませんでしたし、

ましてや弁解しようとは夢にも思いませんでした。

けれど尋ねてきたのは他でもない仁王君なのです。

彼がワタシを侮辱しようとしているのではないということは心から知っていました。

ワタシは仁王君と視線を合わせ、そうして小さく笑みを零しました。



「ワタシは自分の信念を曲げる気はありません。

 誰かに取り入ろうという気もありません。

 ありのままのワタシを好きになってくれる人がいればそれでいいと思っているのです。」



ワタシが言葉を途切れさせると仁王君はワタシの髪を弄る手を止めました。

驚いたの、でしょうか。

少しだけ心配になりながら、ワタシは仁王君の表情を伺いました。

人に、取り入ろうとしない。

そんな態度が仁王君の気に障ったのでしょうか?

ワタシは最終通告を受ける罪人のような心持で仁王君の反応を待ちました。



「・・そうか」



そうして仁王君は驚いたことに、ワタシが一度も見たことのない、少し照れたような笑顔を浮かべたのです。



「そうじゃのう、俺も」





そんな有りのままで生きてる奴を愛してやることが出来る人間でありたいと思っとる。





そう言って、仁王君はまるで子供にするかのようにワタシの頭を優しく撫でたのでした。

ワタシは自分のことを理解してくれる人がいるという幸せを、心から嬉しく思いました。