ワタシは 第
感にも似た、言葉では到底言い表すことなどできない、

心でのみ感じる 何か に呼び込まれたのかもしれません。





+First/Final Contact





入りたての新しい学校。

慣れるにはまだ時間も経験も足り無すぎるという、春の始まりの時。

初めて見る顔ぶれ、見たこともないような人々によって作り出される、『クラス』という集団。

顔も知らぬ人々が作り出す新しい集団に、慣れるのには時間が必要。


見知らぬ人間たちが出会う空間で、人はどうやって他人の性質を見抜くのでしょう。

興味深い問題であるとは思いましたが、

けれど、まだワタシの性格など分かりもしないのでしょう担任の教師に、

新学期早々にクラス委員を命名されてしまったのは、紛れもない事実なのです。

もちろんそこで、ワタシに断る権利など、ありませんでした。

気がついたらそれは鮮やかに颯爽と。

ワタシの肩に、委員長という肩書きが、言葉どおりに重く圧し掛かってきたのでした。


重いというのは主観であり、感じる重さは人により違うのでしょうけれども。

任された委員長という役職は、ワタシには少々重いものでした。




そう、あの時彼に会うまでは。




とある日の午後。

次の時間、屋上で体育をやるから、と。

担任に頼まれ、誰よりも先に体育の道具を屋上に運ぶことになりました。

昼休みののどかな時間に、一人屋上へ向かわなければならなかったのは少し憂鬱でしたが、

それでも教室の窓から見上げた空がまるで作られたかのように水色で、

浮かぶ雲が綿菓子のように作り物めいた質感を持っていたように感じたので、

曇ったガラスを通してではなく、四角く切り取られた空ではなく、

本物の、綺麗に弧を描いた空が見たかったので、軽い足取りで屋上に向かったのです。



足取りが軽かったのは、こういう理由があったからです。

けれど、言葉だけでは伝えることのできない、

寧ろ、風などに乗せれば届くのではないかと錯覚してしまうような、

第六感にも似た感情が、ワタシの心の中を占めていたことも事実です。


理由などワタシには分かりません。

けれど、窓越しに見上げた窮屈そうな、青い空が。

ワタシのことを呼んでいるかのように感じたのです。




錆びた屋上のドアを開けると、そこには視界を埋め尽くす、鮮やかな水色の洪水。

切り取られた立方体の空などではなく、世間一般で言われているような、

丸い、柔らかな弧を描いた空がワタシの視界に飛び込んできました。


しかし、ワタシの目に飛び込んできたのはそれだけではなかったのです。

空と屋上の地面とを繋ぐ境目――鈍い色をした金属で作られた柵のところに、

逆さになった制服が。



逆さになった、制服。

美しい水色の空に投げ出された、頭。



ワタシは一瞬で状況を理解し、柵から身を投げようとしている学生の下へ、

考える暇もなく急いで駆け寄りました。


必死で手を伸ばし、すがり付いて、

その学生の体を必死でこちらに引き寄せました。


倒れた衝撃で背中をコンクリートに打ちましたが、そんなことを気にする暇もありませんでした。

目に映る、銀の色。

驚いたような、形のよい瞳。


そんなものが断片的にワタシの頭に刻み付けられたのです。



背中にコンクリートの感触を感じながら、ワタシは数秒の間、頭の中が真っ白になりました。

それから、普段よりも数倍早くなった鼓動に体を委ねながら、僅かに目を開きました。

飛び降りようとしていた学生が、無事であるかどうかを確かめたかったからです。


ゆっくりと瞼を上げて、ワタシはまた驚かざるを得ませんでした。

目を開いたらそこに、今助けた学生の顔があったからです。



「大丈夫か・・アンタ?」



心配そうに覗き込んでくる顔に、ワタシは僅かに息を飲みました。

青い空に、キラキラと溶け込むように銀髪が揺れているのです。

見たこともないような光景に、ワタシは少しの間その美しさに見とれました。


鼓動はいまだ高いままで、心音が落ち着かないまま、

飛び降りようとしていた学生の顔をじっと眺めていました。

けれど学生が僅かに怪訝そうな顔をしたので、

そこでやっと自分が彼に返事をしなくてはならないことに気がつきました。



「ええ・・、大丈夫です。

 それより貴方こそ、大丈夫なんですか?」



ワタシが体を起こそうとすると、彼も体を起こしました。

まだ静まらない心音を抱えながら、ワタシと彼はそのまま座りながら向き合いました。

ワタシはずれてしまった眼鏡を直しながら、改めて彼の姿を見たのです。



「ああ、平気じゃ」



確かに目の前に座る彼に、外傷などどこにも見つけることはできませんでした。

ワタシはほっと息をつき、けれどすぐに思い直し、睨みつけるように彼を見たのです。



「飛び降りなど・・
 
 自分の人生を粗末にするようなことはやめたまえ」



ワタシがそう告げると、彼はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしました。

それから。

おなかを抱えて、これ以上ないくらいに思いっきり笑い出したのです。



「お前・・!

 本気でそうおもったんかい?

 ならそれはあんたの間違いじゃ」



南の言葉を話す彼は、笑いながらそう告げる。



「俺は空を見ていただけじゃ

 間違えたのは、お前の方じゃけんのう」



耳に通る、綺麗な声をワタシは返す言葉もなく聞いていました。

先ほどから続く鼓動は鳴りやまず、それとともに顔に熱が上ってくることに気づきました。

勘違いをしてしまったのだ、と、気づいた私は顔から火を噴きそうなほどでした。



「・・すみませんでした」



目の前で笑う彼に、深々と頭を下げました。

彼のことを自殺志願者だと間違えたのはワタシなのですから、

当然だと思いながら頭を下げたのです。


しかしそれを見た彼は、またおかしそうに笑い始めたのです。



「お前・・面白い奴やのう。

 名前はなんていうん?学年は?」



矢継ぎ早の質問に、意図が読めずに少しだけ混乱しました。

頬の熱は少しだけ収まりましたが、跳ねる鼓動はいまだやむことはありません。

どこか変だとは思いましたが、何が変なのか、そして何処が違うのか、

そのときのワタシには理解することができませんでした。



「一年の柳生比呂士です」



「柳生、な」



ん、覚えた、と彼は幸せそうに笑いました。

だからワタシも思わず彼につられて名を尋ねました。



「・・貴方のお名前は・・?」



「一年、仁王雅治」



よろしく



そう言って差し出された手を、ワタシは考える暇もなく握りました。

手を差し出し、握手を交わす。


ワタシの手はまだ鼓動が早くて、どうしようかと思ったのですが、

触れて、繋いだ彼の手も、酷く鼓動が早かったので、気にすることもありませんでした。



「よろしくお願いします」



言いながら、酷く奇妙な関係だと思いました。

屋上で、ワタシの勘違いから始まった出会い。


けれど、ワタシは。

繋がれる彼の熱を感じながら、






ワタシを呼んだのはこの人なのではないのかと。

そう思ったのです。
















彼の空で、立方体ではない、綺麗な弧を描いた青い空が輝いていました。