紳士と裸、という言葉はなんとも似つかわしくない響きを持ちながら共に存在する言葉だと思う。 +部室より 紳士と呼ばれる柳生はその名に違う事なく立海大で一番他の人間に優しい人物だ。 けれど他人に気を遣うということは大概自分に無頓着であることが多い。 柳生も例に漏れず、そういう類の人間で、 今も部室に二人きりだというのに構わず彼は上のジャージを脱ぎ始めた。 状況がちゃんと理解できているのかと仁王は僅かに苦笑いを零す。 部室で二人きり、夕日の差し込む部屋で惜しみなく愛する恋人の背中を見せられる仁王が 一体どんな気分になるのかなど考えてもいないのだろう。 夕日の中で曝される真っ白な背中。 その背中には昨日仁王がつけた跡がくっきりと残っている。 きっと柳生はそんな跡が残っていることを知らない。 真っ赤な、これでもかというほど存在を主張している赤い所有印は、 昨晩柳生が眠っているときにこっそりとつけた。 誰にも触れさせないように、 取られないようにと願いにも似た思いを込めて柳生の背中に口づけたのだ。 今それは惜しみなく曝される柳生の背中に息づいている。 それを見て仁王は小さく笑う。 そうして、赤い所有印の息づく柳生の背中に手を伸ばした。 「・・仁王君?」 触れられたことを不思議に思ったのか柳生は仁王を振り向く。 仁王はそんな他人のことに酷く鈍い柳生の性格を逆手に取り、素肌の背中に抱きついた。 肩に唇を這わせば流石に柳生も気付いたようで慌てて仁王を振り払おうとする。 しかし既に時遅く、紳士と呼ばれる彼が恋人のことを強く振り払えるはずがなかった。 小さな抵抗の後仁王が首筋に口づけると柳生の行動が止まる。 それにニヤリと笑みを零し、柳生の体に唇と手を這わせていく。 柳生にとっては運の悪いことに今日最後まで練習をしていたのは仁王と柳生であり、 この部室にこれから人が入ってくる可能性はない。 勿論仁王にとっては好都合以外の何物でもなく、 柳生もそれを分かっているのかいつもなら言ってくるだろう言葉を今日は紡いでこない。 後ろから強く抱きしめると、柳生が小さく溜息をつく。 「・・誰もいないからいいというものでもないですよ」 「自分から誘っておいて今更じゃ」 まるで柳生が悪いかのように責める。 もちろん柳生に非などあるはずがないのだが。 ・・しかし驚いたことにその言葉に対する反論が何もなかったのだ。 「・・ヒロくん?」 声も出ないほど怒ったのかと心配になって顔を覗き込むと、 驚いたことに柳生の顔は真っ赤になっていた。 「・・乗ってきた貴方も同罪です」 と、告げられて。詐欺師と呼ばれる自分が不意をつかれたように、全身の鼓動が跳ねた。 勿論顔に出るような失態は犯さなかった。 けれども心はこれ以上ない早さの鼓動を告げていた。 「負けたわ・・」 後ろから柳生の体をぎゅっと抱き締める。 詐欺師と呼ばれる自分すら、鮮やかに騙してしまう彼は、 本当は自分なんかよりもずっと詐欺師なのかもしれない。 「ヒロくんはエセ詐欺師じゃ」 告げれば柳生は僅かに俯いて、頬を染めた。 それを見て仁王はもう遠慮などせずにロッカーに柳生の体を押し付ける。 視線を合わせて、二人。 密かに笑みを零す。 「真田にばれたら大変なことになるのう・・」 「ですね」 そうして二人で笑い、息さえを奪い尽くすようなキスをした。 |