の陽気に誘われて、さすがの紳士様も眠気には勝てなかったようだ。





+春うらら+





クラスが同じになって初めての春。

クラス替えをした当初は席替えなどなく、暫くは名前の順で席が決められる。

柳生と柳。

苗字の似ている二人は当然の様に前と後ろという席順になった。

慣れない新しいクラスで近くの席に知り合いがいるというのは何とも心強いことで、幸運と言えるだろう。


そんな新しい日々が始まってから間もなくのこと、春も深くなって来たある日。

柳の前に座っている柳生が授業中に珍しく教師に集中していなかった。

自分はいつもの癖で要らないこともデータを取ってしまいがちなのだが、

柳生のこんな姿を見るのはデータを紐解いてみても、今までで初めてだった。


珍しいこともあるものだ、と見ていると柳生はそのうち、うとうとと顔を項垂れ始めた。

流石にこんな姿は見たことがないと興味津々に目の前の柳生を見つめる。

今日はぽかぽかと暖かい。

教室の半分ほどが睡魔に負けて眠ってしまっている、穏やかな午後。

そんな空気に紳士様も誘われてしまったのだろう。


柳は僅かに笑みを零しながらそんな微笑ましい姿を見つめた。

きっと柳生がこんな無防備な姿を見せていると知れば、仁王が嫉妬の炎を燃やすだろう。

授業中であれ、他のクラスから飛んできたかもしれない。


と、そんな想像を膨らませていると、柳生が僅かに体を動かした。

ぴくり、と動いて、それからまた止まった。

もしかしたら何か夢でも見ているのかもしれない。

そう予想をつけて更に柳生を眺めていると、驚いたことに、小さな声が聞こえてきた。



「ん・仁王く・・」



その寝言に柳は飛び上がりそうになった。

思わず、他の生徒に聞かれていないか辺りを見渡す。

けれど都合よく、柳生の周りの生徒たちも同じように惰眠を貪っているので、

誰一人柳生の寝言に気づいた者はいないようだ。

柳は思わず安堵で息を下ろす。


どうして他人のことでここまで心配しなくてはならないのかと思うが、

柳生の為ならば仕方ないと思う。


そんな時、突然柳生が気づいたように顔を上げた。

そうしてきょろきょろと周りを見て、それから僅かに頬を染めた。


・・一体どんな夢を見ていたのか、問うても良いのだろうか、柳生よ。


内心でそう思いながらも、少しだけ柳生と仁王が羨ましかった。

好きな人を夢で見られる柳生と、

夢見てもらえる仁王と。

どちらも何て幸せものなのだと思う。




こうなれば自分も、春の陽気に誘われて、

心地よく愛する人の夢を見ながら眠ってしまおうかと。

そう思ったのだ。