最近仁王君は食事の後に、ワタシに隠れて何かを飲んでいるようなのです。

し事をされるというのは、どんな時でも嫌なものです。

仁王君はそんなワタシの感情に気づいてくれているのでしょうか?





+意地と甲斐性とプライドと。





体調が悪くて薬を飲んでいるのならば、ワタシに隠す必要などないでしょうし。

いえ、もしかしたらワタシに心配させまいと、隠しているのかもしれません。

けれど、毎日の姿を見ていて、仁王君が何処か体を壊しているなど、到底見えないのです。

練習もきちんとこなしますし、無理しているようにも見えません。

詐欺師という名を持つ彼のことですから、騙されているのかもしれないと、

心配して柳君に聞いてみても、仁王君が体調不良であるというデータは何処にもないそうなのです。

一体食後に何を飲んでいるのか、貧困な想像しかできないワタシにとっては考えもつきません。


分かっている事実は二つです。

仁王君は最近、それを毎食後に飲んでいるということ。

そして、その事実をワタシに隠そうとしているということです。


そこから何か分かるかもしれないと思いましたが、けれどやはりワタシの思考の限界を超えました。

こういう時、やはり頼りになるのは友人というものなので、

ワタシは休み時間に隣のクラスへと向かいました。

普段は滅多に他のクラスに足を踏み入れるということはしないのですけれども、

このままでは気になって気になって日常生活にまで支障をきたしそうでしたので、

勇気を振り絞って助けを求めることにしたのです。


隣のクラスには丸井君が在籍しています。

聡い丸井君であれば、もしかしたら仁王君の異変に気づいているかもしれないと、

ワタシは最近の仁王君の行動を丸井君に話しました。


すると丸井君は話の途中で堪えられないという風に笑い出しました。



「柳生〜!お前も?」



そう言われたのですけれども、ワタシは訳が分からなく思わず首を傾げました。

丸井君はまだ笑いが止まらないらしく、おなかを抱えて机を思い切りよく叩いています。

そんな丸井君になす術もなくおろおろしていれば、

僅かに涙目の彼がワタシの前にびしっと指を突きつけました。



「ヒントは二つ!」



思わずその勢いに飲まれるようにワタシは一つ頷きました。



「その1:仁王君には悩みがあります」



ワタシは思わず息を飲みました。

仁王君がワタシの知らないところで悩んでいたなど、初耳だったからです。

一人で苦しんでいたのでしょうか、もしかしたら薬を飲むほど追い込まれていたかもしれません、と、

そんなことばかりがワタシの頭の中を駆け巡りました。



「ごめんごめん、そんなに心配することじゃないって!

 んでもってヒントその2:真田も同じものを飲んでいます」



今度、ワタシは二度ほど瞬きをせざるをえませんでした。

真田君も同じ薬を飲んでいるなど、一体どういうことなのでしょう。

訳が分からず、ワタシはただ丸井君からの解答を待ちました。

もったいぶった彼は中々答えを口に出そうとはしませんでしたが、

ワタシが不安そうな顔をしていることに気づいたのか、

にっこりと満面の笑みを浮かべながら意外なことを口にしたのです。



「柳もその薬が何か分からなくて俺のとこに聞きにきたんだぜ?」



・・柳君も真田君が薬を飲んでいることを知っていて、

けれど何の薬を飲んでいるのか分からなかったということでしょうか。

ワタシの中で更に謎は深まることになりました。

一体真田君と仁王君は何の薬を飲んでいるというのでしょうか。



「実はあれ、ユキが勧めたんだぜ」



不安にさせてごめんなー、という丸井君にただ頷き返すことしかできませんでした。

幸村君は一体何の薬を勧めたというのでしょう?



「あれは、カルシウム剤。

 彼氏の意地だ、って真田も仁王も飲み始めたんだぜ?

 愛されてるよな」



そこまで聞いて、ワタシはやっと仁王君の飲んでいた薬の意味が分かりました。

そんな健気な仁王君の行動に感動して、愛されてるよな、という丸井君のセリフに、

思わず当然です、と返してしまいそうになりました。

けれどぐっと堪えて、照れ隠しにずれてもいない眼鏡を直す仕草をしました。



「身長がワタシより低いなど・・気にすることでもないでしょうに・・」



本当に。

気にするようなことでもないのです。

ワタシは確かに仁王君より身長は高いですが、それも僅かな違いしかありません。

体型はほとんど同じです。


けれども他の誰でもない、ワタシのために毎日隠れて努力をしてくれているという事実に、

単純なワタシは幸せな思いでいっぱいにならざるをえませんでした。

今仁王君に会ったら、幸せで幸せで、公衆の面前にも関らず、抱き締めてもらいたくなるでしょう。



「そう?

 仁王的にはきっとすげえ大きい問題なんじゃん?

 真田も仁王も必死っぽかったし」



悪戯っこのような笑みを向けてくる丸井君に、

ワタシはもう気恥ずかしくてついに下を向いてしまいました。





ワタシのために一生懸命になってくれている仁王君のために。

もう少しだけワタシは、知らないフリをしていてあげようと思いました。

でもきっと隠し事が下手なワタシの行動に、聡い仁王君はすぐ気づいてしまうのでしょうけれども。





ワタシが知っていると仁王君にばれたその時には。

その時には、心からの 有難う をあげようと思うのです。