学校の帰りにワタシが仁王君の部屋へ遊びにいくと、そこに見知らぬ写真が置いてありました。 +10年後 ふと、昨日まではなかったはずのその写真が気になって手に取りました。 そこは、ワタシの知らない場所で、どうやら結婚式の写真のようでした。 これは仁王君の親族の方の写真のようです。 真ん中に新郎新婦が座り、その隣、後ろにたくさんの方々が並んでいました。 この中に仁王君もいるのかもしれません。 そう思って写真の中を探し始めました。 けれども人数も多い上に、写真の中の人たちはみな、 正装をしているので普段の仁王君の特徴からは判断できずに、見つけるのに時間がかかってしまいました。 仁王君を見つけることができたのは五分くらいたった頃でしょうか。 前から3列目の左から4番目に、仁王君は立っていました。 やっと見つかった嬉しさで、ワタシは思わず笑顔を零しました。 「やっと見つかったんか?」 上から覗き込んできた仁王君にワタシは驚いて写真を取り落としそうになりました。 「・・仁王君! ずっと見てらしたんですか?」 見られていた、という気恥ずかしさに少し語気が荒くなりながら、キッと仁王君を睨みました。 けれど仁王君はそんなものはどこ吹く風で、笑顔でワタシを見つめました。 「そうじゃな、お前さんが写真を手に取ったあたりからずっと見とったよ」 「では声をかけてくださればいいじゃないですか」 黙って見られていたことがやはり恥ずかしく、恨めしげに仁王君を見ました。 「でもな、必死で俺の姿を探しちょる比呂くんが可愛かったんじゃ」 可愛い、という台詞にワタシは僅かに頬を染めました。 何度も言われているのにも関らず、いまだに慣れることはありません。 ワタシは僅かに俯いて手にしていた写真を見ました。 その中に仁王君が映っているのは先ほど確認しました。 でも、写真の中の仁王君はいつもの仁王君とどことなく雰囲気が違います。 もちろん周りの環境が違うから、とも言えるでしょうが、背広を着て、 普段より髪の毛を整えている仁王君を見て、ワタシは何だか変な感情に襲われました。 「これな、親戚の結婚式で、格式ある場所でやるっちゅうことで、 きちんとした格好してかなくちゃならんかったんじゃ」 「そうなんですか・・」 ワタシは先ほどの変な感情の波の中に留まりながら、その写真を眺めました。 「比呂くん、俺がかっこよすぎて見惚れてるんか?」 瞬間、ワタシはぼっと、顔から火を噴くかと思うくらいに頬を染めました。 図星でした。 背広を着て、髪型もいつもよりもきちんとした仁王君を見て、 きっと近い将来、こんな風に大人になった仁王君がワタシの目の前にいるのかと思ったら、 凄く心がドキドキしてしまったのです。 今でさえ、こんなに心を揺さぶられているのにも関らず、 将来こんな風にかっこよくなった仁王君が目の前に現れたら、ワタシはどうなってしまうのでしょう? きっと、ワタシはもっと仁王君のことが好きで好きで仕方がなくなっているのでしょう。 そんな日が来ることを少しだけ怖いと思いましたが、 仁王君がワタシを愛してくれるのであれば、それは待ち望むべき嬉しいことなのかもしれません。 ワタシが俯いたまま何も言葉を発せずにいると、仁王君はぎゅっとワタシのことを抱き締めてくれました。 「・・今から言っとくけん、 俺はこんなもんじゃなかとよ。 もっともっと、比呂くんに好かれるためにかっこよくなる予定じゃからの」 貴方の、宣戦布告ともとれるその言葉に、思わず体が震えます。 怖くて、ではありません。 きっと、期待で体が震えてしまったのでしょう。 収まらない鼓動に、ワタシは仁王君の服の裾をぎゅっと握り締めます。 すると仁王君はプツリ、と何かの歯止めが切れたかのように激しくワタシに口づけました。 そうして息も継げないキスの後、ゆっくりとベッドに横たえられました。 きっと、10年後もこうして。 ワタシは仁王君に愛されているに違いありません。 |