365日の終わり。

こんな日には、今まで作り上げてきた全ての自分をかなぐり捨てて。

ありのままの自分であろうと思うのだ。





+24hours/365days





大晦日の夜、黒須大学のとある研究室の中にて。

世間ではみな、家のこたつに入りながら、みかんを食べ、

紅白を見ながら一年にあったことを思い出しては、新しい年の思いを馳せているのだろう。

そんな、新しい年の足音が近づいてくる音が聞こえ出す時刻。

佐藤と不破はなんとも色気のなく、黒須大学の研究室の中にいた。

研究室の中には、流石不破が所属する研究室だと思わんばかりに、

娯楽の道具が一切なかった。

大学生なのだからもっと遊んでもいいのではないかとも思うのだが、

視界に入るのは試験官やら見たこともないような色をした液体ばかり。


大晦日の夜に恋人と二人、確かになんとも色気のないところにいるものだと思う。

けれども同じ目的に向かっているとはいえ、歩く道が違う二人が。

こうして年末とはいえ、共にいられるということが奇跡にも近い。

京都の実家を抜け出して、東京に向かい。

ここに着いたのはほんのついさっきの出来事。


ドアを開け、研究室の中を覗けば、そこにいたのは不破一人。

大晦日まで研究室に篭るもの好きは流石に不破くらいで、

佐藤にしてみればそれはそれで好都合だ、と思った。


少しだけ待て、という不破の言葉に、

佐藤は、近くにあったソファに座って不破の姿を眺めることにした。


ドアを開けた瞬間に飛び込んできた後ろ姿。

少し見ないうちに、背が伸びただろうか。

GKの後ろ姿など滅多に見ることがなく、改めてじっと見たからそう思っただけなのだろうか。

真剣に試験官に向かう不破の姿がなんだか昔よりもずっと大人びて見えて、

佐藤は僅かに笑みを零した。


この男は。

自分がわざわざ今日、京都から出てきた意味を知っているのだろうか。

大晦日にまで研究室に篭る不破が、気づいているとは到底思えないけれど。

もしかしたら風祭や椎名辺りからメールを貰って、

流石に今日が自分の誕生日だ、くらい気づいてはいるのかもしれない。


それでも、佐藤が大人しくここで待っている意味だとか、

わざわざ何もかもを投げ出して不破に会いにきた意味だとか。

人の心には滅法疎い不破は気づいてもいないのだろう。


なんて考え事をしながら不破を見ていたら、

仕事を終えたらしい不破がこちらに近づいてきた。



「佐藤」



低い、綺麗な、しかし佐藤にしか向けない熱を含んだ声で名を呼ばれる。

それから。

座っている佐藤を、上から包むように抱き締めてくる。


包み込む腕に、佐藤は素直に体を預ける。

この世で一番愛する人に抱き締められて、抵抗する理由など何処にもない。


抱き締める腕の熱を受け止める。

やっぱり。

少しだけまた背が伸びたようだ。

抱き締める腕が背で僅かに余る。

・・同じサッカー選手としてはやはり少し悔しいけれど。


甘えるように抱きついてくる不破に体は大きくなっても全然変わらないな、と。

佐藤は頬に自然と笑みを乗せる。



「俺な、京都から抜け出してきたんやで。

 マスコミにばれたら世間でめっちゃ話題になるで、俺」


不破との関係がばれたらどないしよ?

俺ら、世間のはみだしものになるかもしれんで?


笑いに乗せて、そんなことを尋ねてみた。

もちろん佐藤自身、世間にばれたからといって堂々と生きていく覚悟はある。

誰に後ろ指をさされようとも気にするような性格でもなかった。


・・だから、少し。

不破がどう思っているのかが気になった。

佐藤以上に不破は人の言動など気にはしないだろうけれども。

もしそんなことがあった時に、不破がどういう行動を取るのだろうか、と。


好奇心にまけて、ぽろりと飛び出したのは戯言に似た本音。




「?

 ・・それで何か佐藤に不都合があるのか?」


俺は別に構わないが。



そう、考えるまでもなく。

答えを告げた不破に、佐藤は思わず吹き出してしまった。

そういう人間なのだ、不破は。

きっと自分の信念は曲げない。

何があっても、人の言動などには惑わされない。

・・少しでも不安に思った佐藤が馬鹿みたいだ。



「あー・・、やっぱり俺不破のこと好きやわ」



笑いながらそう告げる佐藤を不思議そうな目で見ながら、

不破はどこか腑に落ちないような表情をしている。


冗談の中に込められる本音。

不破はきっと、見抜けないのだろうけど。


例えば12月31日の今日に、わざわざ不破に会いにきたこと。

冗談に似せたように、けれど心から好きだと告げたくてたまらなかったこと。


一年の最後だからこそ、想いが募る終わりだからこそ、

溢れて止まらなくなりそうになる。



手を伸ばして、頬に触れる。

驚いたような不破に、一つ笑みを零す。



「・・好きやで、不破。

 誕生日おめでとさん」



そうして唇にキスを落とす。

軽いキスの後離れようとした唇は不破に止められる。

珍しく、息が詰まるほどのキスを仕掛けられて、僅かに意識が眩む。

目の前がぐらりと、回って。

ソファに倒されたと気づいたのはその数秒後。



噛み付かれるように首筋に口づけられる。

そうして顔を上げた不破に、告げられた言葉に僅かに目を瞠る。




「プレゼントは確かに受け取った」




その言葉に、佐藤は面食らって、これ以上ない笑みを零す。

なんや、お前。

ちゃんと俺の来た意味分かってたんやないか。



そうして佐藤は、負けたとばかりに、心からの本音を紡いだ。




「・・好きにしてええで?
 
 ほんとはな、白衣の不破見てどきどきしとんねん。

 お前いつもと違うんやもん」



不破だけにどきどきするんだと言外に告げて。

しかしそれを不破は幾分の違いなく受け取ってくれたようで。

年の瀬に、二人。

誰も、何も邪魔の入らないこの場所で。




愛しい人の生まれた日を祝う。











Happy Bithday Daichi Fuwa!!