恋人たちに幸せなクリスマスを。 +クリスマス・イブニング 『跡部、おれ、サンタさんに会いたい』 そう言われて少々戸惑ったというのが実際のところだ。 ジローがまだサンタクロースを信じていることに戸惑っているわけではない。 そう信じ込ませたのも、いないなどとは微塵も思わせなかったのも、俺が望んでやったことだ。 純粋なジローのために、まだ子供という部類に入る年代からずっと、 自分がプレゼントを貰う代わりにジローへのサンタクロースの役を買って出た。 クリスマスの夜中、誰よりも綺麗な寝顔で眠るジローの部屋へ。 こっそり忍び込んでは枕元にプレゼントを置いていた。 それから『メリークリスマス』と一言呟き、最後に、ジローの額に一つ口づけを落として部屋を出る。 それが毎年恒例の、俺のクリスマスの夜であった。 だからこそ、少し戸惑う。 確かに愛するジローのためなら外国に住むサンタクロースの一人や二人、 雇って会わせてやることも可能だ。 だけれども俺以外の誰かにジローの天使のような笑顔を見せるのは酷く嫌で、 それ以上に深夜にジローの部屋に他人が踏み込むことなど許せるはずがない。 しかしジローのサンタクロースは俺だったと、ばらしてしまうこともできない。 がっかりして悲しむジローの姿なんて見たくはない。 サンタクロースは忙しいんだ、とこっそりほのめかしてみても、 ジローはクリスマスプレゼントとして欲しいものは、サンタさんに会いたいということなのだと、 一向に意見を変えることがないまま時は過ぎた。 そうして今に至る。 跡部はジローの部屋の窓の前で一つ溜息をつく。 結局他のサンタクロースを雇うこともせず、 代替品のプレゼントを片手に跡部がジローのもとへいくことにした。 今年はサンタクロースは忙しくて会えないのだと、 代わりに手紙とプレゼントを預かったのだと弁解することにした。 俺がジローの部屋の中を覗くと、驚いたことに部屋の電気はついていなかった。 サンタクロースに会いたいとは言ったものの、眠気に負けてしまったのだろうか。 待っている間に眠くなって、いつもどおりに眠ってしまったのだろうか。 いっそそれならばそれで好都合だ。 眠っている間にサンタクロースは行ってしまったのだと言うことができる。 俺は少しだけ安堵しながら、ジローの部屋の窓をそっと開けた。 開けたらすぐ側にベッドがあり、そこにジローが寝ている。 ・・はずなのだが。 その姿がない。 一気に頭の中に疑問符が湧き出て、そうこうしているうちに、突然。 背中に軽い衝撃。 「メリークリスマス!!」 ジローに抱きつかれたのだと気が付いて、俺は僅かに動揺する。 サンタクロースではなく、今ジローが抱きついているのは跡部景吾なのだ。 それに気が付いたらジローはどんな顔をするのだろうか。 心配になって声を出すことができず、そのまま何の反応もできなかった。 けれど。 そんな僅かな静寂を破ったのはまたもジローだった。 「跡部、俺さ、プレゼント用意したんだよ」 その呼びかけに、俺は心底驚く。 「・・お前、知って・・」 振り向いてジローの顔を覗き込む。 明かりのない部屋の中では月明かりでしかジローの顔が判別できなかったけれど、 それでも俺がこの世で一番好きな笑顔で、幸せそうに笑ってくれていることが分かる。 「えへへ・・。 結構前から、俺、知ってたよ。 俺のサンタクロースは跡部なんだ、って」 気づいていなかったのは、俺の方か。 そう知って、僅かに苦笑いを零す。 いつもはあまり物事を気にかけないジローが、時々妙に聡いことがある。 隠し通していたつもりでも、ジローは何処かで俺の存在に気づいていたのかもしれない。 「だからさ、毎年毎年俺ばっかりがプレゼント貰ってるから、 今年は俺からプレゼントをあげる」 そう言って、ジローからは小さな箱を手渡された。 「いつもありがとう俺のサンタさん。 ・・大好きだよ」 僅かに震える手でジローからのプレゼントを受け取る。 そうして、そのまま。 感極まってジローを強く抱き締める。 愛しさを込めて、強く。 これ以上ない想いのもとにジローを抱き締める。 いつもお前から幸せを貰っているから、 クリスマスくらいはいい格好をさせてくれと思うのだけれども、 愛するお前は簡単に俺よりも上の幸せをくれる。 ジローを俺にくれて有難う、と。 世界中のサンタクロースにお礼を言いたい。 「・・俺も愛してるぜ、ジロー」 そう言って頬に一つ口づけて、それから、 唇を指先でなぞって一つキスを落とす。 軽く啄ばむような口づけの後、深く深く交わるようなキスを交わした。 「ジロー」 「何?」 「来年こそはサンタクロースじゃなく、俺様が豪華なプレゼントを用意してやるよ」 「うん!」 幸せな恋人たちのもとに、遠くの方から鈴の音が聞こえた気がした。 聖なる夜に、恋人たちの幸せを。 Merry X'mas! |