+こたつ+





氷帝学園にはレギュラー専用の部室というものがある。

200人以上の部員がいる中、

レギュラーが他部員たちよりもずっとよいコンディションを保つことができるようにと、

この数年の間に作られたまだ新しい部室であった。

その中には氷帝学園のレギュラー陣に日吉を加えたメンバーが在中していた。

この部室だけでなんて高価なものをと思わずにはいられないのだが、

とりあえずこの部をしきる部長がこれくらいの部室はあって当然だと考えている人間なのだから

しょうがないといえばしょうがないのだが。



しかし最近、ただでさえ豪華なクラブハウスの中に突如として持ち込まれたとある物があった。

きっと季節が季節だからなのだろうが、

しかしあんなものを部室に置いてしまう権力と財力があるのはたった一人しか思い付かず、

その運ばれてきたものとのあまりのギャップに頭が痛くなる。

しかしきっとあの俺様な部長がこんな似合わないものを部室に入れたのは、

自分のためでも、レギュラー陣のためでもなく、

言わずもがなお気に入りのあのふわふわの金髪のひよこみたいな男のためなのだろう。



宍戸はレギュラー陣よりも少し長めの練習を終え、部室へと戻ろうとする。

すっかりかじかんでしまった右手をさすって、軽く息を吹きかける。

寒風吹きすさぶ中での練習はいつもよりずっと体力を消耗させるようだ。


「お疲れー!宍戸!」


陽気な向日の声が飛んでくるのはいつものこと。

けれどそれに咄嗟に返事を返すことができなかったのは、

視界に入ったその光景に驚いたからだ。


「何しとるんや宍戸。寒いやないか、はよドア閉め?」


忍足が眉をしかめながら宍戸に言う。

確かにドアは閉めなければならないだろう。

いや別に忍足が寒がっているということなど全然全く関係などなく。

こんな光景を後輩たちに見られたくはないと切実に思ったからであった。

ぱたりと急いでドアを閉め、宍戸は再びそこで立ち尽くす。


「宍戸、何やってんの??早くこっちこいよ。あったかいぞ」




いや、それはあったかいだろうが。




「せや、自分もほんまは入りたいんやろ。

スペースはこんなに空いてるさかい、意地張らんと入ったらええねん」


だからって何故。



3年レギュラー陣はなごやかに大型こたつに入っているのだろうか。



こたつがこの世に存在しているのがいけないのか、

はたまたレギュラー陣が全員入れてしまうほどのこたつも置けてしまうほどの

広さのある部室があることがいけないのか。


宍戸は大きな溜息をついて、この原因となった二人を見た。


はたまた、愛しい恋人の我が儘を軽く聞いてしまえるほどの財力を持つ、

氷帝学園の部長が悪いのだろうか。


宍戸は、こたつに入り悠々と部誌などを書いている、

この氷帝学園を背負う人物へと視線を向けた。

その横には明るい髪しか見えないのだが、

氷帝学園のNO2が、温かいこたつに入り込んで惰眠を貧っている。

隣にいる愛おしい人物を時折眺め、

はたまた時にはその柔らかそうな髪を優しくもてあそんでいる跡部の姿を見て、

宍戸はがっくりと首を落とした。


この二人の仲睦まじい姿は一年の頃から見ているのだが、

最近頓に人目も憚らずにひっついている姿を見て、

喜ばしいというよりは呆れるという感じである。



そんなことを考えているうちに宍戸は見なくてもよかったものを見てしまい、

随分と後悔することになるのだが。



「ん、跡部・・」


髪を弄られる気配に気がついたのか、ジローは僅かに意識を覚醒させた。

舌っ足らずの言葉とともに眠たそうな目をほんのりと開く。

そうして普段には見せないようなどことなく甘い笑顔を向ける跡部の姿を認めると、

ジローもまるで母親を見つけた雛鳥のように笑ってみせたのだ。


そこで視線を離せばよかったのに、それができなかったのは、

あまりの驚きに目が離せなくなったからだ。

甘えるような笑みを浮かべたジローは自分の髪に触れる跡部の右手を掴み、

そして懐くように跡部の腕に頬を寄せた。

大好きな子にそんなことをされた跡部は照れ隠しのような苦笑いを浮かべた後、

ジローの頬を撫でるとそのまま口づけを落とした。

それに気付いた宍戸はしばし呆然としていたのだが、

助けを求めるように忍足と向日を見ると彼等は楽しげに会話をしているだけで、

跡部とジローの行動には気付いていないようであった。

それを見て宍戸は一つ深い溜息を零し、部室にただ立ち尽くしていた。



誰かあのバカップルを止めてくれ。



ここはまがりなりにもテニス部の部室であり、

暖かいこたつを囲んでいちゃいちゃする場では決してないのだが。

そんなことを思いながら宍戸は、けれども自分の力だけでは止められないということを

重々承知しており、ただただ深く溜息をつくことしかできない。




その時。


「お疲れ様です」


部室のドアから元気に入ってきたのは同じレギュラーの鳳だった。


「あれ、宍戸さん。何こんなトコで立ってるんすか?」


ぼんやりと立っている宍戸の顔を覗き込みながら心配そうな声音で尋ねてくる。


「・・何でもねぇよ」


そう答えたのだけれどもそれでもまだ心配げな視線が宍戸に向けられる。


「本当ですか?」


「何度も聞いてんじゃねーよ」


ぶっきらぼうにそう答えて鳳の頭を軽く叩けば、やっと安心したかのように鳳は笑った。


「そうですか!じゃあ宍戸さんも一緒にこたつに入りましょうよ」


そのまま鳳に腕を引っ張られて。

気付いたら鳳の隣でこたつにあたっている自分がいた。

実はこたつの中、手を握られたままで。

振りほどくこともできたのだけれども、そのままにしておいた。

別にあの二人のようにおおっぴらにイチャついている訳でもないし、

と自分の行動に理由をつけて納得させて、

自分の腕をやんわりと掴んでいる鳳を横目でちらりと眺める。

すると鳳はまるで宍戸の行動を読んでいたかのようなタイミングで視線を合わせて、

にっこりと笑った。







・・・まあ、部室にこたつくらいあってもいいかと。


現金にも思ってしまった宍戸であった。