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いつもは部活に真面目な亮ちゃんが今日はベンチに座って、なんだか考え込んでる。

めずらしい!って驚きながら、一体亮ちゃんは何を考えてるだろっておもった。

春になってあったかいからかな、

ベンチに座って考え込んでる亮ちゃんの顔はどっかしあわせそうに見えたんだ。





+成長期





「亮ちゃんかんがえごと?」



俺はベンチに座っている亮ちゃんの顔を後ろからおおいかぶさるようにのぞきこんだ。



「・・ん、まぁな」



すると亮ちゃんは俺を上目づかいで見ながら、あいている隣の席をぱんぱんとたたいた。

ここに座れってことかな?

俺はとりあえずちょこんと亮ちゃんの隣に座ってみる。

それから横を向いて亮ちゃんの顔を見るけど、亮ちゃんはぼんやりとコートをながめたまま。



「・・亮ちゃん?」



名前を呼んで、やっと亮ちゃんは気づいたようにこっちを見た。

移動する間に俺のことなんて忘れちゃってたの?



「今日の亮ちゃんなんだか変だよ。だいじょーぶ?」


「悪い、何でもないんだ」



けれど亮ちゃんは俺を見ながらちょっとそわそわしてる。

俺じゃなくて、コートの方を見たいみたいだ。


さっきから亮ちゃんは何を見てるんだろう、って不思議に思って、俺もコートをながめる。


あ、なるほど!

亮ちゃんは鳳が見たかったんだね。


さっきからコートで打ち合っているのは、鳳とぴよだった。

もちろん亮ちゃんはぴよを見たいんじゃなくて、

(ごめん、ぴよ)

鳳が見たかったんだ。



そうしてまた亮ちゃんに視線を戻すと、亮ちゃんは真剣にコートを見てた。



「・・長太郎、うまくなったよな」



うんうん。

と、俺はその言葉に大きくうなづく。

だって鳳は凄く上手くなった。

見ていても分かる。

サーブだけ、だなんて大嘘だよ。

亮ちゃんと一緒に努力して、本当に強くなった。

俺たち三年はもうすぐ引退だけど、二年生がしっかりしてるから安心して引退できるよ。



「上手くなったよね」



その言葉には亮ちゃんの返事はなかった。

亮ちゃんの意識はもうコートにしか向いてないみたいだった。

じゃあ俺も、先輩として真剣に後輩たちの試合を見ようかな、って思った、その時。



「・・長太郎、かっこよくなったよな」



・・・・・・!?

今何て言った、亮ちゃん?

もしかして、ノロケ!?

さっき鳳が強くなった、って言ったのももしかしてそうなの?

そう俺は理解した途端、真剣に後輩の試合を見ていたと思ってた亮ちゃんの顔が、

急に恋する乙女の顔に見えてきた。

(もちろん宍戸はおんなのこじゃないんだけど)


俺が開いた口がふさがらないっ!って思っているうちに、

コートで試合を終えた鳳がまっすぐこっちに向かってきてた。

逃げよう、と思ったんだけどタイミングを失って、哀れな俺は恋人たちのラブラブシーンを見てしまうことになった。



「宍戸さん!見てくれてたんですか?」


「ああ」


「どうでした、俺?」


「ばーか、甘えよ」



さっきは亮ちゃん、かっこいい!とか上手くなった!とか言ってたのに。

これが恋する乙女ごころってやつかな?



「でも、よく頑張ったな」



亮ちゃんは立ち上がって、ちょっとうなだれてる鳳の頭をぽんぽんって撫でた。



「・・はい!!有難うございます、宍戸さん!」



かんっぜんにノロケられたね、俺。

でも亮ちゃん、普段は全然そんなところを見せないから、たまにはいいよ。

許してあげる。

俺も、亮ちゃんが幸せそうな顔をしてた方が嬉しいからね。


・・でもちょっとだけさみしくなった。

こんなとき、やっぱり俺も甘えたくなるんだけど、その甘える人が今日はきてない。

生徒会の仕事があるとかで、部活にこられるかわかんないんだって。

もちろん、お仕事だからしかたない。

けど、そばにいてほしいときにそばにいてくれないのは、

(・・少しだけ、かなしい)


俺は足を抱えて、膝に顔を埋める。

・・駄目だ、笑ってないと。

俺が笑っていないと、いろんな人が悲しむから。



だけど今はいつもみたいに笑える自信がない。

もしむりやり笑ってみせても、きっとすごく汚い笑顔だと思う。

俺が凹んでても、一番心配してくれる人は、今日はいない。

だから少しだけ、このままでいてもいいよね。

復活したら、またいつもみたいに笑ってみせるから。



(みんなの喜ぶ顔がみられるなら、俺はいくらだって元気でいてみせるよ)









「・・おい、何こんなとこでサボってんだ?」



そんなとき、突然頭の上から降ってきた声に俺はおどろいておもいっきり顔を上げる。



「・・跡部?」


「俺様が俺様以外の何だっていうんだ?」


びっくり、した。

ほんとうにびっくりしたよ。

だって、跡部。



「・・今日は生徒会じゃなかったの?」


「あんな仕事くらい俺様の手にかかればどうってことねぇよ。

 すぐに終わらせた」



跡部だ。跡部なんだ。

本当に。



「・・どうした、何かあっ・・!?」



部活中だ、とか跡部は部長なんだ、とか、そんなこと百も承知だったけど。

来てくれたことが嬉しくて、俺はおもいっきり跡部にだきついた。



「跡部っ・・!!」



そんな俺に、やっぱり跡部は困ったみたいだけど、それでも俺をぎゅっとだきしめてくれた。

跡部はなだめるように俺の背中をぽんぽんってたたいてくれたんだけど、

それでも俺はぎゅっと跡部にだきついていた。


ぽっかりと空いた俺の心を埋めてくれる人。

苦しいと思ったときには、絶対俺のところにかけつけてくれる。

俺を助けてくれるヒーロー、そして王子様。

何回好きって言っても足りないよ。



俺の心は跡部には丸見えなのかもしれない。

(さすが跡部)

だから跡部は俺の心を読んでくれたかのように、抱き返してくれたんだ。



「・・しょうがねぇな」



そうして、跡部の言葉と、俺の体が宙に浮いたのは同時だった。



「うわっ!?」



視界がいつもより高い!

びっくりして思わず俺は跡部の首に抱きつく。

高いところは好きなんだけど、突然持ち上げられるとびっくりする。



「後は頼んだぞ、宍戸」



跡部はそう言って、宍戸が返事をする前にもう俺をかかえながら歩きだしてしまった。

俺は訳がわかんなくって跡部に声をかけるけど、返事はしてくれなかった。

(跡部、ちょっと怒ってる?)

突然の不機嫌の原因が分からなくてちょっとどきどきした俺だったんだけど、

後から亮ちゃんから聞いた話だと、この時亮ちゃんと鳳はすごい勢いでにらまれたんだって。

そう聞いて俺はびっくりしたのと嬉しかったのと半分半分だった。

(やっぱり跡部は俺の心なんて、全部読めるのかもしれない)





連れてこられたのは、氷帝の、やけに豪華な部室だった。

練習だからそこには誰もいなくて、俺と跡部二人だけ。

シンと冷たいような感じのする部室に下ろされて、そうして跡部に抱き締められる。

ぎゅっと力をこめて抱きしめられて、俺は大人しくその腕の中におさまった。

跡部の腕が俺の体に回される。

その感触が何だかいつもと違って、どきりとする。

(なんだろう、いつもより、すごく静かだ)

感情の波をおさえるかのような跡部の静かな腕に、俺もおずおずと跡部の背中を抱き返す。

いつもと違う雰囲気に何もすることができなくって、ただ跡部の心臓の音を聞いてた。

どくり、どくりと鳴るそれが、いつもよりどこか弱々しい。

(俺様な、跡部の、音が)



「ジロー」



突然、跡部が静かな雰囲気を破るかのように、俺の名前を呼んだ。

そうして俺の肩に顔をうずめてきたんだ。

何でも俺様な跡部が、甘えるなんて本当に珍しい。



「俺はお前を置いてどこへも行かない」

 だから。


 お前も俺の側にいろ。



跡部がしゃべるたびに、俺の肩に跡部の唇が触れる。

本当に、本当に、こんな風になる跡部を見るのは珍しいんだ。

(もちろん、見たことがないわけじゃなかったけど)

だから逆に、その真剣さが伝わってくる。



「うん、跡部」



本当は、やっぱり少し自信がないんだけど。

(前に逃げようとしたこともあった)

高いところを目指して進んでいく跡部が、他の誰でもない、跡部が(ここ、重要)

それでも俺と一緒にいたいと言ってくれるんだったら、



俺は喜んで一緒についていくよ。



頷くのと一緒にこれ以上ないくらいの笑顔を向けたら、跡部が顔を上げて、俺にくちづけてきた。

それと同時に、フワリと背が浮く感覚。

あれ?と思っているうちに、背には柔らかいソファの感触。

そして、真上には誰よりもかっこいい、跡部の顔。



「もう我慢しねぇってこの前言ったよな?」



ソファに倒されて、上には跡部がいて逃げられない。

(逃げようなんて思わないけど)

跡部の左手が輪郭をなぞるように俺の頬に触る。

右手ではネクタイをほどいてる。

その仕草がかっこよくって、俺は思わず見とれていた。

(だって、本当にかっこいいんだ、跡部)

すると跡部はネクタイを近くに放り投げて、口の端を上げて笑ったんだ。

あまりの男っぷりに、俺の体に甘いしびれが走る。

あ、っと思ったときには、もう遅くて。







俺は跡部の腕の中、甘い愛の言葉を聞きながら、与えられる熱に鳴いた。