恋人たちに幸せなクリスマスを。 +愛のかたまり クリスマスに恋人たちが幸せそうに何処かにデートに行く、だなど、一体誰が決めたのだ。 今日はクリスマスイブ、午後8時。 きっと今の時間には幸せそうな恋人たちがいわゆるデートスポットと呼ばれるところに集まっては、 これ以上ない愛を語らっているのだろう。 しかし。 今手塚と乾がいる場所は、そんな甘い雰囲気漂うような遊園地でも夜景の綺麗な場所でもなかった。 何処にいるのかといえば、何てことはない、居慣れた学校の生徒会室の中で。 明日の終業式を前にして、片付けておかなくてはならないことがたくさんあった。 だからこそ途中までは生徒会役員たちとともに仕事を片付けていたのだが、 皆クリスマスイブということもあり、7時を過ぎた頃には帰りたいのかそわそわし始める者が続出した。 普段仕事のために長く残っているのだから、今日くらいはいいか、と。 その後の仕事を全て自分がやるから帰ってもよいという指示を出したのだ。 残っている仕事は僅かであったし、気もそぞろな役員たちに手伝わせるよりも、 乾を生徒会室に呼びつけて、二人で片付けた方が随分と効率がよいだろうと思ってのことだ。 結果的にはやはり、こちらの方がよかったようだ。 手塚はプリントに最後の文字を書き終え、顔を上げる。 正面には既に自分の分の仕事を終え、データ整理をしている乾の姿。 声はかけずに数秒見つめていると、乾も気が付いたようでノートから顔を上げた。 手塚と視線を合わせ、そして。 誰にも見せない顔で、手塚に笑いかけてくれる。 「仕事、終わった?」 「ああ」 手塚が頷くのを見て、乾はノートを閉じて立ち上がった。 そうして。 手塚の前までやってくる。 近づいてくる乾に、我慢できずに手塚は思わず手を伸ばす。 二人だから、誰もいないから。 クリスマス、だから。 幾つも理由をつけては、乾にぎゅっと抱きつく。 すると乾も手塚の頭を撫でてくれ、ぎゅっと抱き返してくれた。 制服越しの熱は酷くもどかしくて、できることなら、早く。 乾ともっと近くなりたいと思った。 乾の手が頬に触れ。 そうして唇に熱が舞い降りる。 生徒会室でこれ以上のことはできないけれど、 それでももたらされる熱の温かさは充分手塚の心を満たしてくれた。 「メリークリスマス、手塚 ・・愛してるよ」 耳元で囁かれた言葉にぴくりと体が竦む。 たとえ、何処かへいかなくとも。 色気のない学校でだって、プレゼントがなくたって。 お前がいれば、何処でも幸せなクリスマスだ。 「メリークリスマス、乾 ・・俺も、愛している」 また触れ合う唇に、とろかされるような気分だった。 恋人たちに幸せなクリスマスを。 Merry Christmas!! |