君が、好きだよ。





+午後0時の劣情





例えばこんなとき。

クラスは離れてしまっているのだけれども。

不意にお前のことを思い出す。



たまたま給食のメニューで出たスパゲティ。

それは何の変哲もないスパゲティだったのだけれども。

そういえばこの前の日曜日に。

乾が家でお昼にスパゲティを作ってくれたな、だなんて思い出して。

それから、一緒にサラダを作ったことだとか、

料理をしたことのない手塚に一生懸命に料理の基本を教えてくれたりしたことだとか、

即席で作ってくれたスープが美味しかったことだとか。



色々、色々、思い出してしまって。


目の前の給食を、食べたいのだけれども思い出すのはお前のことばかり。



テーブルクロスの上に並べられた何の変哲もないスパゲティが、

乾の作った美味しいスパゲティへと変わり、

学校の机が、何度も乾と休日を共にした、乾の家のダイニングテーブルに見えてくるのだ。



重症だ、と。

目の前のスパゲティを見ながら僅かに眉を顰める。




ふとこんなとき。

思い出すのはお前のことばかり。

まるで自分の方が乾のことを好きなようで、


何だか、悔しい。


けれどもお前を好きなことは変わりなく。

好きだ、なんて陳腐な言葉では到底言い切れないほど、

ふとしたこんなときにも思わずお前のことを思い出してしまうほど、



好きで好きで好きで好きで好きで仕方がなくって。




今すぐにでもこの教室を飛び出して、遠く離れたお前のいる11組に向かって。


会って、


抱きしめてもらって、


好きだと何度も、それこそ嫌になるくらいに言ってほしかった。





けれどもそんな思いを実行する訳にもいかず。

こうして給食のスパゲティを食べながら、己の中の劣情を噛み砕くのだ。






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例えばふとしたこんなとき、

まるで思考の全てを奪われているかのように、君のことを思い出す。



今日の給食は、スパゲティとサラダとスープという、

いかにも中学生が好みそうなメニューが並べられていた。




例えばふとしたこんなとき、

思い出すのは君のこと。

自分の中の一体どのくらいが君に支配されているのか。

きっと調べてみなくとも、この体のほとんどは君というものに支配され尽くしているのだろう。

もう他の誰の入り込む隙間もないくらいに。



スパゲティを見て、思い出したのはこの前の日曜日。

二人、乾の家で昼食を作った。

料理など作ったことのない手塚を厨房に立たせるのは気がひけて自分一人で作ろうとしたのだけれども、

今にも泣きそうな手塚の縋るような視線に負けて、二人で昼食を作り始めた。

もちろん手塚は器用なことは一切できないから、簡単にできるサラダを任せることにした。

まずはレタスを洗い、それから洗ったレタスを手で千切り、お皿に盛り付けてもらう。

慣れない手つきで、けれども懸命にレタスを千切る手塚に、ただ愛しさが込み上げた。



思い出すのはいつもいつも君のこと。

日常生活のほんの些細な出来事からでも、鮮明に君を思い出すことができるよ。



細くて長い、白い指がレタスを千切る。

指を伝う水がとても綺麗で。

任せられた仕事を終えた君は、

自分以外の他の誰にも見せない笑顔でとても嬉しそうに笑ってみせた。



そんな、君が。

綺麗で純粋な君が。



好きで好きで好きで好きで好きで仕方がなくって。




今すぐにでもこの教室を飛び出して、遠く離れた君のいる1組に向かって。


会って、


抱きしめて、


好きだと何度も、それこそ嫌になるくらいに伝えたかった。




けれどもそんな思いを実行する訳にもいかず。

こうして給食のスパゲティを食べながら、己の中の劣情を噛み砕くのだ。











お前を。 君を。




愛している。