+独占欲





矛盾した二つの感情が同居する。

それは当然なことなのかもしれないが、どこか滑稽にも思える。

恋は盲目という言葉がある通り、多くの人は恋をすると何も見えなくなってしまう。



ただ一つ、思いを寄せている人を除いては。




恋とは―――。利己的で、そして情熱的だ。

相手の気持ちをこちらに向かせようとするのは自分の身勝手にすぎず、

だけれどもそれは恋という名のもとに正当化されてしまう。

大切なのはどれだけ自分が相手のことを思っているかであって、相手がさほど自分に思いを寄せていなくても、
こちらを向いてもらうために最大限の努力をすればさほど問題でもない。





相手に対する深い思い。

それは自分のためでもある。

恋をして、焦がれるほどの思いは自分ではどうすることもできず、

それを鎮めてくれるのは思い人でしかないから。


どうにかして手にいれたい。振り向かせたい。

指に触れて、肩に腕を回し、口付けをしたい。



そんな思いとは裏腹に、恋とは独占的にもなる。

一度手に入れてしまえば、それを離したくはないと強く願うようになり。

相手を知っていく度に強くなっていく熱を、抑えることはできなくなるのだ。



恋を知り、片思いという熱が収まればその思いは冷めてしまうのではないか。

そんな考えは相手を知る度に欠片もなく消えていってしまった。


思いは留まるところを知らず、相手を求める感情は更に深くなる。


だからこそ、離したくないと思うのだ。


さらっていってしまうかもしれない人達の前から隠して、誰にも見えないように。

ただ自分だけが見えるように縛り付けておけたらどんなによいかと。

そう願うようになってくる。



大切に思う反面、傷つけたくなるのは何故だろうか。



恋は我侭で、そして自分勝手だ。






「桜木!」

駅前で待ち合わせをしていた。

もちろん花道とのデートなのだし、楽しみにしていたのだが。

余裕を持ってかけたはずの目覚ましはいつものように気がついたら待ち合わせ時刻ぎりぎりの時間を指していた。

慌てて家を出て、待ち合わせ場所まで走る。

服なんて選んでいる余裕なんかなかったし、急いでセットした髪も走っているうちに崩れてしまっているのだろう。

そうして着いた待ち合わせ場所には、時間には結構うるさい花道がきちんと待っていた。



時間は12時15分。



仙道はそれでも15分遅れで済んだことに少しだけ胸をなでおろした。

以前、花道と待ち合わせたときに30分以上遅れて、ものすごい怒りをかったことがある。

そのときは流石の仙道でも宥めるのに時間がかかったのだ。


息を切らせながら花道の前で手を合わせる。

そんな仙道をちらっと見て、花道はやはり怒ったようにそっぽを向いた。



「おめーは時間前に来るってことができねーのかよ!」


「だからごめんってば。今度から気をつけるから・・」


「おめーの今度は聞き飽きた!」



口ではそんなことを言っているが、仙道の言葉にちゃんと返事をしてくれるあたり、まだ怒りは小さいらしい。



「じゃあ今から気をつけるから」



ね?と笑顔で花道の顔を覗き込むと、花道は呆れたように肩を落とした。



「まあおめーの遅刻なんて今始まったもんでもないしな」



そのお許しに仙道は明らかに嬉しそうな顔をして花道の手を握った。



「有り難う桜木!」


「な・・俺は許した訳じゃないからな!」


「はいはい。ごめんね桜木」



仙道の言葉に顔を赤くした花道が、仙道の顔を見ようともしないでずんずん前へと進んでいこうとする。

そんな花道を見て、仙道は思わず笑みが零れてしまう。


(・・かわいすぎるよ、桜木)



仙道は一人幸せを噛みしめながら、花道の後を追うべく足を速めた。

花道の横に並んで、さり気なく腰に腕を回す。

しかしそれも花道によって遮られてしまう。



「ば・・何やってんだ!ここは道のど真ん中だぞ!」



真っ赤な顔をして叫ぶ花道に、仙道は極上の笑みを浮かべながら答える。



「えー、だめなの・・?いいじゃないか別に」


「駄目なもんは駄目ったら駄目なんだ!」



既に何を言っているか分からなくなってるだろう花道に、仙道は残念に思いながらすっと手をひいた。



「しょうがないな・・。じゃあ今度は人前じゃないところでくっつこーな」



仙道が耳元でそう囁くと、花道は今度こそ耐えられないという風に仙道を睨んだ。

もちろん、その顔は耳まで真っ赤だ。

そんな花道を心からいとおしく思いながら、仙道はふと周りの視線に気がついた。




周りの視線が花道に集まっているのだ。

もちろん、その風貌が珍しいから目だっているだけではない。

赤い髪、琥珀色の瞳、そしてくるくる回る表情に、誰しもが惹きつけられているのだ。



花道がもてないなんていうのは間違いだ。

だれもがその性格に惹かれ、周りに人が集まってくる。

街中でさえそうだ。



自惚れではなく、仙道と一緒にいるときの花道は普段よりよく笑うし、よく怒る。

そんな自然体な花道を見て、誰が惹かれずにいられようか?

周りの花道を見る視線に、仙道の心は一気に冷えていく。


花道の表情を見せることも、花道が他のものに意識を向けることでさえ許せない。



「桜木・・」


呼びかけに、花道は何の警戒心もなく振り返った。



「なんだセンドー?」



その腕を掴んで、人気のない路地へと花道を引っ張っていく。

ビルとビルの間のそこは狭く、人のいる気配もない。

仙道は辺りを見回してそれを確認すると、引っ張ってきた花道を壁に押し付けて、荒々しく唇を貪った。



「・・っ・・う・・」



花道が驚いたように仙道の胸を押し返そうとする。

しかしそんな抵抗も気にせず、仙道はただ花道の唇を思う存分味わった。

しつこいほどに舌を吸い、全てを奪うかのように深く絡め取る。

花道の口の端から互いの蜜が流れ落ちていくのもかまわずにただ相手の熱だけを追った。

次第に花道の体から力が抜けていく。

震えだし、足元から崩れおちそうになるその体を、仙道はしっかりと抱きしめた。



「駄目だよ、桜木。俺以外にあんな顔みせちゃ・・」


「・・どん・・な・・?」



息も絶え絶えに尋ねてくる花道に、仙道は口に耳を寄せて囁いた。



「今の桜木みたいな顔だよ・・」



仙道はシャツの合間から見える花道の鎖骨に唇を這わせ、裾から手を伸ばしてその全身を愛撫する。

鎖骨の辺りには以前仙道が付けた跡が未だ生々しく残っていた。

それを見て少し口元で笑って見せて、消えるなとばかりに再びそこを強く吸う。



「・・くっ・・はぁ・・・」



街中で行為に及んでいるせいか、花道は必死で声をあげないようにしているようだ。

手は口から思わず出てしまう喘ぎ声を抑えるために使われていて、ほとんど抵抗らしきものはしてこない。


それに気をよくした仙道は花道のシャツのボタンを開け、胸の突起に手を伸ばした。

片方は唇で吸い、反対の突起は手で強く摘み上げてやる。

花道が大きく震えたのを確認して、仙道は満足げに愛撫を深めていく。

その間にも空いている手で花道の中心へと手を伸ばしていく。

触れると、花道の体は敏感に反応を示した。



「・・んぅ・・」



仙道が触れてくるのを待ちわびていたかのように、そこはすでに熱く勃ちあがっていた。

そこで仙道は一旦その手を離し、なぞるように花道の腰骨の辺りを舐めた。

ビクンと花道の体が震え、耐えられないとばかりに花道の腕が仙道の腕に縋ってくる。



「・・桜木、触ってほしい・・?」



耳元で囁いて、花道の腿の内側へと手を伸ばす。

熱を持ったモノには触れず、柔らかな皮膚だけを撫でるように触れていく。

花道は首を振って仙道の言葉を拒否しようとする。



「・・いや・・だ」

「いやなの?桜木・・」



耳朶を柔らかく噛んで、声を抑えていた花道の手をどける。

そして声さえも奪ってしまうように深く口付けた。



「・・いや・・だっつって・・んだ・・ろ・・」



苦しげにそう言葉を紡ぐ花道に、仙道は更に追い討ちをかけるかのように腰の奥へと手をのばす。



「じゃあ桜木はこっちを触ってほしいのかな?」



入り口付近を撫でるように触ると、花道が堪えきれない喘ぎを零す。



「・・っ・・」



目の端に涙を浮かべて仙道を見つめる花道は、誘っているのかと錯覚しそうなほど妖艶だ。

余裕を見せている仙道もそこまで大人ではない。

愛する人の媚態を見せられて正気でいられるほどできた人間である訳がない。

今にも花道の中に入り込んでいきたい衝動を抑えながら、仙道は優しく呟いた。



「素直にならないと何もしてあげないよ・・」



花道の両腕を壁に押さえつけて、指を花道の口へと差し入れる。



「舐めて、桜木・・」



言うと、どこか熱を持ったような瞳で花道は仙道の指を嘗め回した。

強く吸い、指の根元まで舌を這わせるその行動に、仙道は体の熱がまた一段と上がるのを感じた。

そのまま指を入り口に滑らし、花道の中へと進入していく。


花道の中は燃え盛るように熱い。

逃さないとばかりに絡み付いてくる熱さに仙道はこれ以上ない喜びを覚える。



「・・桜木、情熱的・・」


「・・う・・るさい・・ば・・か」



悪態をつく花道にお仕置きとばかりに快感のポイントを抉ってやる。



「・・ふ・・はぁ・・」



内壁が大きな快感を感じているかのように、仙道の指に纏わり着く。

それを感じて、仙道は一気に指を引き抜いた。



「い・・ぁ・・」



花道は不安げに仙道を見つめてくる。

体は痙攣するように震え、入り口はもの欲しそうに収縮を始める。



「桜木・・欲しい?」



掠めるように仙道の指が腰の辺りに触れる。

強がっておきながらも、仙道にもそんなに余裕はない。

もう既に服の中で勃ちあがりかけている自身が何よりもそれを証明している。


花道が一旦その琥珀色の目をつぶり、挑むように仙道に言った。



「・・くれ・・早く・・」



ズクンと下半身に痺れが走るのが分かる。

思わず喉が鳴ったかもしれない。



「やるよ、桜木・・いくらでも・・」



もう理性という名の感情は残っていなかった。

欲しいだけ花道を貪ろうと手が動く。

仙道は花道の片足を抱え上げ、自身を、喪失感に震える花道のそこに押しやった。

花道の体がこれから訪れるだろう歓喜にうち震える。

そして花道の体に深く口付けを落としながら、仙道は一気に花道を貫いた。



「・・・ぅ・ああ・・!」



挿入の衝撃に花道がたまらず声をあげようとするのを、仙道は自分の唇で押しとめた。

花道の中の熱さに仙道は達してしまうのを無理やり抑える。


思う存分に花道を味わうために一旦深く息を吐く。

まだ震える花道の体を抱きしめながら、仙道はゆるやかに律動を始めた。



「・・はぁ・・ぅん・・」



必死に抑えようとしている花道の喘ぎ声が耳に心地よく聞こえる。



「・・セン・・ドォ・・」



自分の名を呼び、無心に縋り付いてくる姿に仙道は更に動きを激しくした。

花道の中の熱さにおかしくなってしまいそうだ。


突き上げるたびにしっとりとからみつくように仙道を包み込む。



「・・桜木・・もっと感じて・・」



仙道の声に花道の内壁が一層強く絡みついてくる。



「・・センドー・・センドー・・!」



花道はもう限界のようだった。

懸命に仙道に腕を伸ばし、しがみついてくる。



「・・桜木、愛してるよ・・」



再び深く口付けて、仙道はこれ以上はないというくらい深く花道を抉った。



「・・・んぁぁ・・ああ!」



それと同時に花道が達する。その締め付けによって仙道も花道の中で果てた。





ビルの壁に二人の荒い息遣いだけが反響する。

仙道は自分に支えられてしか立っていられない花道を見て表情を暗くした。


こんなことがしたい訳じゃない。


大切に大切にあの明るい笑顔が消えないように守ってやりたいだけなのに。

そうしてその笑顔を自分だけのものにしたいという思いは消えないのだろう。



仙道が未だ震える花道の肩を、壊れやすい物を扱うかのように優しく抱きしめると、

花道は顔をあげ、まっすぐに仙道を見つめた。



「センドー、・・おめー、また何か馬鹿なこと考えてただろ?」



花道の言葉に仙道は驚きに目を見開いた。



「おめーがおかしいときなんてすぐに分かるんだよ。どーせまたろくでもないこと考えてたんだろ・・」



仙道はただ唖然とするしかなかった。

そして震える声で紡ぐことができたのはやっとこれだけだった。



「・・桜木はどうしてそんなこと・・?」



琥珀色の瞳は仙道の心の中まで貫いていくようだ。

いつも花道にはかなわないと思わせる、そして仙道自身を駆り立てるこの瞳。



「・・ヤってるときにあんな辛そうな顔されてみろ・・誰だって分かる・・」



花道の手が仙道の服の裾を握る。

どこかで仙道も花道を不安にさせていたかもしれない。

仙道は花道の手を取り、握り返す。



「俺はどこにもいかねぇ・・。だから安心しろよ・・」



照れたように小さく呟いた花道を見て、仙道は優しく笑った。

恥ずかしがりやの恋人が懸命に言ってくれた言葉。

それだけで心はずっと軽くなる。



「・・有り難う、桜木・・」



顔に満面の笑みを浮かべて、仙道は花道に触れるようなキスをした。



「ねえ、桜木、もう一回しよっか?」



ストレートな仙道の発言に花道は一瞬で顔を真っ赤にした。



「もちろんここでなんて言わないからさ。うちに来る?」


「ば、ばっかヤロー!」



愛しい愛しい花道の叫び声がビル街にこだまして、仙道は堪え切れない笑みを漏らした。






恋なんて複雑で簡単。