+Strawberry Candy 甘い甘い恋の罠。 アナタも嵌ってみませんか? ぱたりぱたりと歩く音。 どうしてなんだろう。 俺にはこの足音の人物がすぐわかってしまう。 歩くリズムと、まるでその人物の性格を表すかのような不遜な足音。 近づいてくる度に、体の中のセンサーが反応する。 どこにいても、俺はきっと三井のことわかるんだろうな。 そう思ったらなんだか悔しくなった。 俺ばかりが三井のこと、好きみたいで。 ちょっとふくれてみながら、俺は誰もいない教室で一人その足音が近づいてくるのを待つ。 行儀悪く机に肘をついて、窓の外を見上げてみた。 一定のリズムで近づいてくる足音。 だんだん大きくなってくる。 だけど、急いでるふうでもない三井の足音にまたふと心が苦しくなる。 俺に会うために、もう少し急いでくれたっていいのに。 我侭だって分かってるけど、何だか心がむかむかした。 俺はどこにいても三井のこと、わかるのに。 廊下を歩いていても、まるでセンサーでもついているかのように三井の声は耳へと伝わってくる。 三井の声が別段大きいからという訳じゃない。 きっとどこにいても無意識に三井のことを探しているんだ。 体全部がアンテナのように、三井のどんな情報も逃がすまいと、俺の体は出来ているに違いない。 おかしい?そうでもないよ。 好きな人の声とか仕草とか。 ずっと見ていたいと思うのは自然だよね。 そんなことで俺を許してみる。 でも本当は気がついてほしくて仕方がないんだ。 三井がクラスメイトと話しているときでも、こっちに気がついてくれないかな、とか少しでも笑いかけてくれないかなとか、期待している俺がいる。 やっぱり俺ばっかり三井のこと好きみたいで、何だか損してる気分だ。 俺は青い空を見つめて一つため息をつく。 雲ひとつない空は何にも悩みなんてないんだろうな。 心地よい初夏の風が俺の前髪をかすめて吹き抜けていく。 カーテンがひらひらと揺れて、作られる影はとても綺麗だ。 きもちいいなぁ。 穏やかな日差しの中で、俺はそっと目を閉じてみた。 日の光だけを感じられるようになった体は、素直にその温かさを受け取る。 心地よくって、このまま眠ってしまいそうな気分だった。 そのとき、一定のリズムを刻んだ足音が近くでぴたっと止まった。 そしてがらがらと扉を開ける音。 あ、三井だ。 近づいてくる気配に気がついたけれども、俺はそのまま目をあけなかった。 悔しかったからっていうのももちろんあるけど、起きるタイミングを失ってしまったんだ。 日の光を感じていたはずの体は、今は三井の足音しか感じられなくなっている。 近づいてくる足音だけを耳で、皮膚で、感じようとしてる。 やっぱり、俺の体は三井を探すアンテナなのかもしれない。 たった少しの電波でも逃さないように。 三井の情報を逃さないように。 顔も向けない俺をどう思ったのか、三井は俺の横で足をとめた。 何をするんだろうとどきどきしている俺は、些細な音にも敏感になってる。 ふと、閉じた瞳の上に手が触れた。 三井の情報を余すところなく受け取ろうとしていた俺の体は、情けないほどに反応してしまう。 「おい、木暮・・寝てるんじゃねーよ」 少しからかいの混じった声で、耳の近くでそう言われる。 俺は三井の手をどかしながら、きっと赤くなってるだろう顔で反論した。 きっと、説得力なんてないんだろうな。 「・・寝てなんかないよ」 今日初めて見た三井の顔は、すごく嬉しそうだった。 子供っぽい俺の仕草に笑ってるのは分かってたから、俺は頬を膨らませて少し不機嫌そうにそっぽを向いた。 「もう、早く座れよ。勉強しにきたんだろ?」 「はいはい」 それでもまだ笑いながら三井はおとなしく俺の向かいの席に座った。 「じゃあ今日は積分だな」 鞄の中から数学の教科書を取り出して机の上に置くと、三井はあからさまに嫌そうな顔をする。 「めんどくせえなあ・・」 まるで敵でも見るような目で数学の教科書を見る三井に、俺は思わず笑みをこぼす。 「やらないといつまでたっても面倒くさいんだよ」 「・・そうか・・」 俺に笑われて少しはやる気を出したのか、三井はぱらぱらと教科書をめくってみせた。 「あーあ、こんなことより早くバスケがしてえ・・」 それは俺も同じだよ、三井。 俺も数学なんかよりバスケがしたいよ。 だって早くボールに触りたくてうずうずしてる。 もし、今突然バスケが禁止になって、できなくなったら俺はどうなるんだろう? きっと禁断症状が出て死んじゃうかもね。 「・・そうだな。早くバスケがしたい」 俺は体育館の方を見ながらそう言葉にしてみた。 あと少しで部活が始まるのに、どうしてそんなに俺はバスケがしたいんだろう。 俺はそっと三井の方を見る。 そこにいた三井は、まるでただのバスケを楽しみにしてる少年みたいな顔をして。 すごく嬉しそうに体育館を見ていた。 三井って、すごくバスケが好きなんだな。 ボールに触れると途端に変わる目の輝きとか、ゴールに向かう真剣なまなざしとか。 全身でバスケが好きだって言ってる。 すごいなあ、三井って。 素直にそう思って、三井の横顔をじっと見つめた。 こんなに三井に思われて、バスケはなんて幸せな奴なんだろう。 俺はそんなことが頭をよぎった。 よぎった考えに焦って、俺は考えないようにしようと軽く頭を振った。 ・・バスケにまで嫉妬するなんて、俺もう言葉じゃ表せないくらい三井のこと好きなんだ・・。 三井に気づかれないように俺は小さくため息をついた。 全身から『好きだ』ってわかるくらいの感情を、三井は俺にも向けてくれないかな。 都合のいい考えだって分かってるけど、少しくらい望んでみたってばちはあたらないとは思うから。 あーあ、バスケばっかり三井に好かれていいよな。 こっち向け。 体育館ばっかり見てるのはひどいんだぞ。 俺、傷ついてるんだからな。 そんな思いを込めながら見ていると、突然三井が俺の方を振り向いた。 目が合って、思わずどきりと緊張してしまった。 思っていることが分かっちゃったならどうしよう。 そんな不安とともに、逸らされることのない視線に俺は心臓の音が早くなっていくのを感じた。 三井は何が言いたいんだろう? 早く何か言ってくれよ三井。 俺、苦しくて死にそうなんだってば。 「木暮」 名前を呼ばれて、また心が跳ねるのがわかる。 それだけじゃなくて、顔も耳まで赤くなってるかもしれない。 だって、三井が。 三井が俺のこと。 どうしようもなく好きみたいな顔で見るから。 いとおしそうに名前を呼ぶから。 俺、勘違いしそうになっちゃったじゃないか。 こんな俺を見られたくなくて、俺は顔を隠すように下を向いた。 三井がふっと息を吐くのが分かった。 馬鹿なやつだと思われてるのかもしれない。 三井の視線がまるで全身を苛んでいくように思える。 嫌だ。見られたくない。 俺は何かに縋るように、両手でぎゅっとシャツを握り締めた。 「・・木暮。俺、これでも我慢してるんだぜ」 え、何言ってるんだ三井? 訳がわからな・・。 突然顎に触れられて、俺はゆっくりと顔を上げる。 目の前にどこか切なげな三井の顔。 あたたかい三井の唇が柔らかく俺の唇に触れていく。 俺、三井とキスしてる・・。 柔らかく包み込まれるようなあたたかさに、俺は思わず目を閉じた。 三井の手がそっと頬に触れる。 指先で頬をそっと撫でて、すっと上になぞっていく。 軽く触れられた耳たぶに、俺は思わず体を縮こませた。 それを咎めるかのように三井は更に口付けを深くしてくる。 思わず漏れる吐息。 あ、駄目だって三井・・。 ここ学校だよ。それに勉強するために来たんだし・・。 もう少しで部活も始まる時間だし・・。 「・・う・・ん・・」 俺は三井に駄目だって伝えようとして、口付けから逃れるために軽く首を振った。 「・・みつ・・だ・・め・・」 口付けの合間に何とか言葉に出して伝える。 そうすると三井は渋々といった様子でゆっくりと離れていった。 眉間には皺が寄ってる。 「・・三井、勉強しないと」 俺の言葉に三井は更に眉を顰める。 いつもなら口元を少しだけ上げてかっこよく笑いながら謝るのに、今日の三井は何だか違う。 ずいっと三井の体が迫ってきて、至近距離で真っ直ぐに目を見つめられた。 「・・お前」 珍しく言葉を濁して三井が言う。 俺、何かしたっけ? 真っ直ぐで、だけどどこか痛みを抱えたような三井の視線。 俺は不安げに三井を見つめかえす。 不安だけじゃない心臓の音を聞きながら、三井が言おうとしている言葉を待った。 その時俺は突然、三井に眼鏡を外されてしまった。 視界がぼやけて、目の前にある三井の顔しか見えなくなる。 「・・みつ・・」 びっくりしたけど、それでも冷静さを装って眼鏡を返してほしいと言おうとしたら、三井はまた俺の唇に軽く触れてきた。 ねえ何でそんな辛そうな顔するんだ、三井? 「・・俺はお前のこと好きなんだからな。・・他のことばっかりに目向けてんじゃねーよ」 どこか恥ずかしそうにそう呟く三井に俺は顔がかあっと熱くなっていくのを感じた。 だけど、言われたことをもう一度頭の中で思い返してみて、なんだか理不尽なことを言われてるような気がして、むっと三井の顔を見る。 三井の方がバスケが好きでたまらないって顔をしてたのに。 俺はみっともないくらいにそれに嫉妬してるのに。 どうして自分の方が好きみたいな言い方をするのだろう。 俺の方がお前のこと、ずっとずっと好きなんだからな! 「三井」 少し怒ったように睨んでやりながら三井の頬を軽くつねった。 そんな俺の行動に、三井はびっくりしたような顔をしてる。 「俺の方がずっと三井のこと、好きなんだからな!」 俺が言うと、三井は鉄砲玉をくらった鳩みたいに驚いた顔をした。 目を見開いて、俺のことをじっと見つめてくる。 三井の視線に、今自分が言ったことを思い出して、また顔がかぁっと赤くなってくるのを感じた。 今、俺すごいこと言わなかった・・? いくら三井が俺のこと好きって言ってくれたからって目の前で告白してしまうなんて、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。 そのまま机に突っ伏してしまった俺に、三井がくすっと笑いかけた気配がした。 「有り難うな、木暮。でも俺の方がお前のこと好きだぜ」 三井の告白に、俺は耐えられないくらい体の熱があがってくるのが分かる。 「もう三井!からかうならやめろよ」 耳を塞いで、きっと真っ赤な顔で三井を見ていたのだと思う。 けど、三井がまた瞳にどこか辛そうな色を浮かべて俺を見たから。 ついつい魅入られるようにその顔を見つめてしまった。 「・・ばーか。からかってなんかねえよ」 照れるように呟いた言葉はきっと三井の本音。 心に入ってくる三井の気持ちが暖かくて、俺は素直に頷いた。 「うん、そうだな」 すると三井も嬉しそうに笑ったから、俺も同じように笑ってみせた。 三井が笑うと俺も嬉しいからさ。 だけどやっぱり俺の方が三井のこと、好きだと思うんだけどな。 やっぱりなんだか理不尽な気がする。 あ、そうだ。 俺はふと思いついたことを実行しようと三井のシャツの袖を引っ張った。 「三井・・」 こっちを向いた三井の頬に軽く口付けを落とす。 「じゃあさ、俺も三井も同じくらいお互いのこと好き・・っていうことでいい?」 恥ずかしさを隠すみたいに笑ってそう言うと、三井は蕩けるくらい優しい目で俺を見た。 暖かい手が髪に触れて、くしゃりと髪を撫でてくれる。 「そうだな、そうしよう」 三井が言葉とともに、優しい口付けをくれた。 それに笑顔で頷いてみせると、三井はそっと俺の腕をひいた。 「もう勉強なんてしてらんねーな。体育館行こうぜ」 掴まれた手が嬉しくて、俺はぎゅっと三井の手を握り返す。 それから、二人で鞄を担いで、教室から出ていった。 二人が去った教室には、心地よい風が優しく吹いていた。 甘い甘い恋の罠。 アナタも嵌ってみませんか? |
すみません・・あとがきはあまり書かない人間なのですが、
少しだけ書かせてください!
初めて木暮さん一人称で書いたのですが、
やばいくらいに甘いです!
どなたか食傷気味になられてないか本当に心配です・・。
こんなヲトメな木暮さんは違う!とおっしゃられる方、
本当に申し訳ありません・・(汗)
精進いたします・・。