+Happy birthday+




部活が終わり。

流れる汗をタオルで拭いながら部室へと入った。

そこにはいつもどおり、先に部室へと帰ってきた先輩たちがいて。

愛する愛する恋人は、まだ1年生ということもあり、

コートで片付けの真っ最中。


「お疲れさま〜っす」


部室の中、先輩たちに声をかける。

桃城の思いはここにあらず、なのだけれども。

いつもの習慣で、先輩たちに声をかけることは忘れない。

染み付いた体育会系の香りはそうそうとれるものではないのだ。


「ああ、お疲れ桃」


傍にいた、データを好む3年生が言葉を返してくれる。


「ういーっす。お疲れっす」


それにもう一度、返事をして。

桃城は自分のロッカーに向かった。

しかし、どうしてだろうか。

データの好きな、ランキング戦で自分を負かした先輩が、

自分の後ろをついてきた。


「?なんっすか、乾先輩?」


振り向いて声をかける。

青春学園テニス部3年生は、強い個性の人達が多く。

行動も言動も、突飛なことが多々ある。

けれども、乾のこの行動は明らかにおかしい。

桃城が不思議そうに乾に問うと、乾は桃城の前にすっと手を出した。

その手の中には、一枚の白い紙。


「これを不二から預かった」


乾の言葉を聞き、桃城はその紙を受け取る。

不二先輩から、その言葉に嫌なものを感じない訳ではなかった。

けれどもこれを無視することはきっとできないだろうと。

桃城は今までの経験から知っていた。

シンプルな真っ白な紙には、綺麗な文字でこう書かれていた。


『大切なものは自分で見つけましょう。

P.S 僕の誕生日の時は、有り難う。』


やはり、青学テニス部3年は突飛な人達が多いのだと。

桃城は身をもって感じた。

プレゼントは自分で見つけろということなのだろうか。

いや。

この場合。

大切なもの、とあの先輩が明記しているということは。

今頃コートで掃除をしているはずだった愛する恋人は。

どこか違うところに連れ去られているに違いないのだろう。

桃城は小さくため息を零した。

ちなみに。

最後に小さく添えられた言葉は。

きっと今年の2月、不二の誕生日に。

不二の大切な大切な弟様を、プレゼントしたことをいっているのだろう。

それのお返しですか・・と僅かに苦い気持ちを抱かずにはいられなかった。


「俺、行ってきます・・」


不二の手紙を渡してくれた乾にそう言うと。


「頑張って行っておいで」


と、優しい言葉が返ってきた。

どうやら。

青学の3年生たちは、自分を苛めて楽しむ気はないのだろう。

桃城は言葉をくれた乾に笑い返して、ロッカーの中を見渡した。

すると、河村がこちらに手を振ってくれていて。

菊丸は手にVサイン。

大石は小さくガッツポーズ。

手塚は相変わらず無表情だったけれども、桃城を見て、こう尋ねてきた。


「居場所は分かっているのか?」


「もちろんっす。俺があいつの居場所分からない訳ないじゃないですか」


こう、自信満々に答えると。

やはり無表情の部長は小さく頷いた。


「行ってきます!」


桃城は元気よく、部室を飛び出した。



自分が愛する恋人の居場所をわからないわけはない。

桃城が分からなければ、世界中にいる他の誰だって分からないに違いないのだ。


越前が不二に連れ去られて、まだ間もないはず。

だけれどもあまり遅いと拗ねられることは目に見えているから。

桃城は全速力で裏庭へと走った。


普段鍛えている桃城にとって、少しくらい走ることは何の苦にもならない。

越前がいる場所はきっと、裏庭のお気に入りの木の下。

コンクリートで埋め固められた日本に来た、アメリカ帰りの越前は。

ずっと住んでいたアメリカの家の、庭にあった木に似ている、

裏庭の木がお気に入りだった。

お昼ごはんを食べるとき。いつも越前はそこを選ぶのだ。

裏庭まであと少し。

桃城は更にスピードを上げて、裏庭に向かった。


越前のお気に入りの、木が見えた。

そこの下に目を向ける。

すると、やはり。

そこには愛する愛する、越前がいた。


「遅いよ、桃先輩。7分待った」


まだ大人になりきれていない、けれども綺麗なアルトの声が桃城の耳に届く。

木の下に座った越前は、帽子を深く被っていて。

その表情を読み取ることができなかった。

けれども。

表情を隠そうとするのは、越前の照れ隠し。

嬉しいことがあったとき、越前はその反対の態度をとってみせるのだ。

極度の意地っ張り。

でも。

そんなところがひどく愛おしい。


「悪い。遅くなっちまったな」


桃城は、素直に越前に謝る。

下手に何かを言うと拗ねられるというのは、経験上知っている。

桃城は、越前に近づいて、その顔を覗き込む。

それと同時に、深く被っていた帽子を取った。

すると、越前の大きな瞳が桃城の前に露になる。


「・・何?」


「越前が、俺のプレゼントなんだろ?」


満面の笑みで問うと、越前はふいっとそっぽを向く。


「知らない」


きっと不二からこの話を聞いて。

自分の置かれている立場を理解しているはずなのだろうけども。

こうして素直じゃないのはいつものこと。


「そうか?じゃあ、勝手に貰うな」


越前の顎に手を這わせて、深く口付ける。

まるでそれがなきゃ生きていけないみたいに。

深く越前を貪る。

するといつしか越前も、桃城の口づけに応じてきて。

僅かに開かれた唇から、桃城は舌を侵入させた。

口腔をなぞり、越前を味わう。

いつもよりずっと長いキスの熱は、肌を通じてお互いの中に浸透していく。

外の世界と自分たちが切り離されてしまったような感覚を覚えて。

初めて遊びを覚えた子供がただ一つ、それに熱中するかのように、

人目も憚らず、キスを続けた。


「・・んっ・・桃先輩」


「何?」


越前の、か細い呼びかけに、桃城は一旦口づけを解く。


「・・・お誕生日、おめでとうゴザイマス・・」


目元を朱に染めて。

視線を僅かに逸らしながら、けれども微かに笑みを湛えた越前は。

どこの誰よりもずっとずっと綺麗で。


「・・越前、好きだぜ」


思わず、自分の中の愛を全身で告白してしまいたくなるほど。

彼への愛へが募った。




誰よりも幸せな誕生日。

愛する愛する、越前とともに。