+非売品。〜桃リョの場合〜





愛はお金では量れないって、誰が言ったんだろう。

重さとか、距離だとか。

訳の分からない抽象的な概念でさえ、数字にできてしまうのだから。

『愛』だって、数字に換算することくらいできるのではないかと思ってしまう。


だから、その数字の単位というのが、cmだって、gだっていい訳で。

ましてや、円だっていい訳なのだ。









愛はお金では量れないの?




ふうん。








まだまだだね。



















部活帰りに、桃城と二人ファーストフードに寄る。

今は随分と物価の安い社会になったもので。

腹を満たすくらいの量の食べ物は、コイン数枚で買えてしまうのだ。

日が暮れ始め、そろそろ夕飯の時間も差し迫ってくる。

けれどもそんなことを気にすることなく、リョーマは桃城と店にいた。

目の前で、桃城は、ハンバーガーを三つと、コーラを一杯。

それでも、夕飯前だからと量を控えているらしい。

同じくリョーマはハンバーガーを二つと、これはおなじみ、ファンタグレープ。

桃城よりハンバーガーが一つ足りないのは、体格の差だろうか。



部活後、こうして桃城とファーストフードに来るのは、週に一回程。

その度、桃城はこうしてリョーマにハンバーガーをおごってくれる。

おごってもらうたびに少しだけ罪悪感を覚えるのだけれども。

桃城はいつも、『俺が先輩なんだから気にすんな』と、満面の笑みを浮かべる。

おごってくれるっていうんだから断る気になんてなれない。

本当は、中学生のお小遣いの額くらい、リョーマも分かっている。

馬鹿みたいに無理して、だけどかっこいいとこ見せようと、

桃城はこうしてリョーマを誘ってくれるのだ。

だから、断ることなんてできない。


桃城と、リョーマ。

リョーマのトレイにハンバーガーが一つ、足りないのは、

体格の差なんかじゃなくって。


桃城の懐具合を心配する、

リョーマの。




愛情の、ため。








「ねぇ、桃先輩」


目の前で、ハンバーガーをくわえた桃城に、リョーマが声をかける。


「?何だ」


「コーラ頂戴。」


そう言って。

桃城の了解を得る前に、リョーマは桃城のコーラに手を伸ばした。

けれども桃城はそれを咎めるわけでもなく。

少し苦笑いをしながら、リョーマのそれを見つめていた。



愛なんて、お金で量ることなんてできないという。

だけれどもこうして。

お金や物なんかに執着することなく、ただ自分だけを甘やかしてくれるっていう行為で、

なんとなく、自分への愛が量れてしまうような気がしてならない。



「何だよ、お前。コーラが飲みたかったのか?」


桃城が問う。

別に、コーラが飲みたかったわけじゃない。

コーラを通じて、桃城の愛を量りたかっただけ。


「別に」


リョーマは何故だか桃城を直視できない気がして。

トレイに乗せられた、ハンバーガーの包みを見つめていた。

少しだけ罪悪感に駆られながら。





ごめんね、桃先輩。

コーラなんかで、愛を量ったりなんかして。





桃城のコーラを、トレイに返し、ふとリョーマは今日の出来事を思い出した。

海堂を、少しだけ苛めてみたのだ。


今日の練習中。

あんまりにも乾と海堂が仲よさげに話しているのを見て。

羨ましいと、思ってしまって。

少しだけ、海堂で遊んでみたのだ。

自分よりも随分と恋愛に対しては素直な海堂は、リョーマの思うとおりの行動をしてくれて。

個人的には満足であったのだけれども。

それでも、幸せそうな海堂の姿を見ていたら、淋しい気持ちになったのは何故なのだろう。


リョーマはトレイに残ったハンバーガーを一口かじった。

何だか分からないけど、もやもや。

愛なんて、量らなくても分かっているはずなのに、もやもやもやもや。


だから少しだけ、目の前にいる愛する人を試してみたくなったのだ。



「ねえ、桃先輩」


再び桃城に声をかけた。


「ん?何だ。またコーラか?」


笑ってコーラを差し出す桃城に、だけれども違うとかぶりを振って。

じっと桃城の目を見つめる。

自分の、少し鋭い目で見上げると、どんな効果があるのか知ってのことだ。

全て計算づく。

そして、使う手口は、昼間、海堂に使ったものとほとんど同じもの。



「ねぇ、桃先輩。乾先輩ってかっこいいっすよね。」



まだ、桃城は何の反応も見せない。



「みんなに信頼されてるし、テニスは上手いし・・・」



おや、とリョーマは思う。

いつもの桃城だったら、この辺で何か反応を見せてもいいはずであるのに。


どうしてだろう。


桃城は何の反応も見せないのだ。


リョーマは失敗したかな?と、心の中で焦りを見せながらも、

けれどもそれを外には出さないように気をつけながら続けた。



「乾先輩、俺をいくらで買ってくれるかな?」



瞬間。

バン!と、大きな音をたてて、桃城が机を叩いた。

店内の人たちが一斉にこちらを向いたのだけれども。

学生同士の喧嘩だと分かると、まるで何事もなかったかのように無関心を装った。



「越前。冗談でもそういうこと言うな・・。

 俺、そんなに心が広いわけじゃねぇから、嫉妬しちまう・・」



そう、言って。

わりぃ、と。

まるで傷ついた猫のように、リョーマから視線を外した。



さすがに、そんな桃城を見て。

リョーマは悪いことをしてしまったと。

一人静かに反省をした。

ごめんなさい、なんて言葉にすることはできないのだけれども。

どうにかして、桃城に謝罪の意を伝えなければならないと。


リョーマは顔を上げて、桃城の表情をうかがった。



「桃先輩」


名を呼んで。

桃城がこちらを向いたのを確認して、言葉を発した。


「これ、あげる」


手にしていたものは、リョーマの大好きな大好きなファンタグレープ。

それだけで、気づいてくれるだろうか?


僅かに視線を上げながら、桃城の表情を窺う。

すると、桃城はいつものようにニカっと笑って、ファンタグレープを受け取った。


「ありがとな」


その笑顔を見て。

もう二度と、愛を量るなんて馬鹿なことはしないと。

リョーマは思ったのでした。