君と二人で立つこの、青い空の下のマウンドで。

たった二人、身を寄せ合って死ぬのも悪くないと思うのだ。





+青空心中+





君とだけしか共有しえないこの場所で。

たった二人、愛の囁きにも似た言葉を交わす。


突き抜けるような青空。

マウンドを中心にして広がっているような丸い空。

ここに立つことができるのは、君と自分のただ二人だけ。

周りに仲間はいるけれども、結局はたった一人、孤島のようなこの場所に取り残され。

相手と対峙しなくてはいけないのは他の誰でもない、自分だけ。

直に降り注ぐ太陽と、吹き抜ける風。

孤高に乾いた自分を潤すものは何もなく。

ただ、一人。

この場所に立つことのできる君を待つ。



「犬飼くん」



君は一筋の涼風。

このマウンドに舞い降りた地上の女神。



「お疲れ様っす」



誰をも癒す笑顔で微笑む君は、けれども常とは違い、試合前の高揚で頬を僅かに桃色に染めている。

その姿は何よりも美しく。

投げ疲れた重い体をふわりと癒してくれるほど。



「ああ・・」



「ゆっくり休んでくださいね」


後は、僕が。



自分よりも随分と小さな君の体は、何と大きなものを背負っているのだろう。

手に入れた代償として背負ったものは酷く大きく。

けれども君は何でもないような顔をして、背負ったものを自分の中に取り入れようとする。

それは傍目には何も変わらず、常と同じように見えるのだけれども。

君はその思いを心の中に閉じ込めて、隠してしまうのが上手いだけで。

背負ったものの重さを、そして自分がどんな立場であらねばならないのか、

噛みしめるように一人で考えて、そうしてこの場所に立っている。

君のその強さに、同じ投手として誇りを覚えずにはいられなかった。



十二支高校はこの夏、最高の守護神を得た。

それは慈悲と、勝利の女神。

最終回に登場しては、その優しい笑顔を絶やさず。

敗北の不安を吹き消し、その名の通り、勝利の予感を沸き起こす。



高校野球界に吹いた、一筋の風。

十二支勝利の女神の登場。





球場の真ん中、内野手が集まるマウンドの真ん中。

大きく開けた青空の下、たった二人君との世界。



俺だけに笑いかけてくれる君を掻き抱いてしまいたくて仕方がない。

このまま、二人だけしか見ることがなく、君をこの腕の中に閉じ込めてしまいたい。

試合前の高揚を有し、僅かに潤む瞳の君を。

勝利の女神を腕の中に。



俺はすっと、勝利の女神に腕を伸ばす。

すると、君は差し出された俺の腕を見て、一つ笑みを零す。

そうして君も、僕に向かってその白い腕を伸ばした。


俺はその手に、少し土色になった白球を渡す。

白球を白い手の上に乗せ、そうして離れる寸前に指先で君の掌を撫でる。

指先に触れる甘い熱。

そこから熱い思いが湧きあがってくるよう。

白球を手渡し、視線を合わせる。

見つめた君の瞳には、試合の高揚とは違った熱が灯る。

ぞくり、と君の中の熱と同調するように、体中の血液が沸騰する感覚。

試合を終えた体は静まることがなく、君を掻き抱いてしまうのを押さえるのに酷く苦労した。



「・・頑張れよ」



紡ぎだされた声は、少し掠れていたかもしれない。



「頑張るっす」



そう言って、君は誰よりも綺麗に笑った。

思いを君に託す。

そうして君は、十二支の女神の名の通り。

勝利を。

乾いた俺たちに勝利をもたらしてくれるのだろう。





マウンドにまだ残っているだろう俺の熱を。

君が感じながら投げてくれればいいと願いながら。

俺は君を一人残してマウンドを下りた。