君が痛いと言えないのならば。 俺が代わりに、痛いと言うよ。 +霞桜 君が、大きな桜の木の下。 雄大な、けれども清楚な花をつけた桜の木を見上げながら、一人。 今にも泣きそうに見えるのは、あまりにも美しい桜色の花びらのせいだろうか。 花をつけず、身を固くしていた時には、気にした風もなかったというのに。 柔らかい命の息吹を感じさせるつぼみをつけ始めた頃、 君は必ず、その木々に目を止めるようになった。 青いサングラスの下、目を逸らさずに咲き誇る花々を見上げる君の姿は。 何も言葉にしない分、ひどく心を揺り動かした。 心が悲鳴を上げる。 しかし君は痛いと言葉にすることはなく。 降り積もる思いは、次第に君を蝕んでいく。 君の強さが痛かった。 手を伸ばさない君の手を、自分は掴んでやることしかできず。 ただ佇む君を、静かに抱き締めることしかできなかった。 無力な自分。 焦燥感に駆られるけれども、しかし決して越えられることのない壁。 「室町くん」 君を後ろから抱き締めて、名を呼ぶ。 できるだけ、静かに。 君を傷つけないように、柔らかに。 指先を君の頬に伸ばし、そっとサングラスを掴む。 君の瞳を覆う、青いレンズを取り去った。 「ごめんね」 謝るけれども、君の痛みを取り去ってやることはできない。 「痛いよね」 きっと泣きたいのだろうけれども、涙を流さない君の。 瞳を手で覆って、強く抱き締める。 好きになってしまったのは、罪ではなく。 けれども、恋が愛する人を傷つけてしまう。 目の前に佇む、淡い桃色の花びらが、次に花をつけるとき。 君の隣に、俺はいない。 「ごめんね・・」 守るように、強く強く抱き締めた。 強くあらねばならない。 君が痛いと言えない分、俺が代わりに痛いと言おう。 俺が代わりに痛いと言うから。 どうか、君の痛みを俺に分けて。 「・・千石さん」 透き通る、君の声が心を揺らす。 「桜・・、また咲きますよね?」 ひどく弱々しい、けれども辛さを有さない声が、鼓膜に響く。 「次も・・またその次も」 君の言葉に含まれる意味に気づいて顔を上げる。 次の桜で終わりじゃない。 これから先、何度も何度も木が桜の花をつけるのを見ることになるのだろう。 君の前向きな強さに安心して、 もしかしたら弱いのは、君ではなく、俺の方なのではないかと。 来年の、今頃。 当たり前のように側にいた君が、いなくなることへの喪失感。 それを思うだけで震えそうになる自分がいることに気がつく。 もっと、強く。 守りたいものがあるならば、尚更。 強く、在りたいと願う。 「ああ、そうだね。 きっと、次も、その次も。 綺麗な花を咲かせるよ」 答えれば、君はひどく綺麗な笑顔で笑った。 桜は、花が咲き、花が散り、葉をつけ、葉が散り。 ――そしてまた、花が咲く。 次の次の花が咲く時、君の隣には必ず、 俺がいるから。 |