恋人たちに幸せなクリスマスを。 +Love Letter 普段だったらクリスマスなんて行事、あの人がこれでもかってくらいに騒いで騒いで。 室町くん何が欲しい?だとか、俺はね〜室町くんが欲しいんだ!だとか。 それはもう煩いくらいにクリスマスを強調するのに。 今年のあの人は、とても静かだ。 周りのクラスメイトはクリスマス色一色なのに、 あの人だけ、まるでその存在を忘れているかのようだった。 でも本当にあの人がクリスマスを忘れている訳がないだろうし、 わざと忘れているように見せているとしか思えなかった。 何か意図があってあの人は忘れているように見せているのだろうけれども。 それでも、今日。クリスマスイブ、当日。 今日になっても何も言ってこない千石さんに、俺は僅かに戸惑う。 普通に接してくるのに、クリスマスは忘れているかのようなあの人に、 湧き上がるのは疑心暗鬼の心。 もしかしたらもう心変わりされたのかもしれなくて、 クリスマスイブは他の誰か知らない女とデートに行く約束をしていて。 だから俺とは何処にも行きたくないのだと、行かないのだと暗に言われているように思えた。 クリスマスイブももちろんあった部活の後、家へと戻る足取りは酷く重かった。 まるで足におもりがついているかのようだ。 クリスマスに振られる、だなんて洒落にならない。 あの人ならやりかねないことだけれども。 自分には、まだ決心がついていないから。 振るなら優しく。 あの笑顔で振ってほしかった。 家へ帰り、部屋へと戻る。 酷く沈んだ気持ちになりながら、真っ暗な部屋に明かりをつけようとスイッチに手を伸ばす。 ぱぁっと明るくなった部屋。 それにも思わず溜息をつかずにはいられなかった。 鞄をその辺りに放り出し、そうして制服のボタンに手をかける。 その時に俺は、机の上に、雪のように真っ白な封筒が置いてあることに気が付いた。 今は手紙など読む気分ではなかったけれど、俺は気になってその手紙を手に取った。 差出人は。 『千石清純』 その時に俺は直感した。 ああ、振られるのだと。 この人は、直接振ってもくれないのかと。 それほど俺は愛想をつかされてしまったのかと。 ここまでくれば、苦笑いさえ零れてくる。 確かに優しい振り方だ。 けれども、優しすぎるのも残酷だ。 恐る恐る手紙を手に取り、封を開ける。 一つ深呼吸をして手紙本文を読む。 そうして。 全ての手紙を読み終えたとき、室町は制服のままコートを掴んで外へと駆け出していた。 『大好きな室町くんへ』 室町は冷え込む夜の街を走った。 『いつも声だけじゃつまらないと思って手紙にしたよ。 声なら音は残らないけど、言葉なら残るから』 あの人は馬鹿だ。 間違いなくそうだと思う。 『好きだよ、愛してるよ。 この世の中で俺の一番は室町くんなんだ 手紙って難しいね。 思っていることがうまく表せない。 心の中には君が好きだっていう思いが、詰まってるのに。』 わざわざ。 手紙なんて媒体にしなくても、千石さんの得意な、喋るということだけでも、 俺には十分想いは伝わっているのに。 『今日、室町くんが来てくれるまでいつもの公園でずっとまってるから。 プレゼント用意してるから、楽しみに待っててね。 あ、でも室町くんはプレゼント要らないよ』 『だって、 俺にとっては室町くんがプレゼントなんだからさ』 ・・千石さんは本当に馬鹿だ。 街の中を走って、走って。 いつも二人で帰りに寄る公園にやってくる。 するとそこには僅かに鼻が赤くなったけれども、 それでも凄く嬉しそうな笑顔を浮かべた千石さんがいた。 「・・千石さん」 「室町く〜ん! 来てくれたんだ、有難う!」 そういって俺は千石さんに抱き締められる。 触れた頬が冷たい。 一体千石さんは俺のことを、どれくらい前から待っていたのだろう。 「・・俺が来なかったらどうするつもりだったんですか」 手紙を。 必ずその日に読むとは限らないのに。 「うん、でも俺は信じてたよ。 室町くんが来てくれるって だって俺、ラッキーだし!」 「あなた本当に馬鹿ですよね・・」 そう言って、ぎゅっと。 少しでも温かくなるように、千石に抱きつく。 普段はこんなことはしないけれど。 俺のことを信じて待っていてくれた千石さんに、少しでもお返しができるように。 「ひっどーい室町くん! 俺は室町くんを愛してるからどこまででも馬鹿になれるんだよ」 そう言って笑う千石さんは、どこまでも俺の好きな千石さんだった。 抱き締められて、心がとても温かくなって。 これ以上ない幸せに包まれる。 素直に言葉にはできないのだけれども。 俺もこの世で一番、この人のことが好きだと思った。 「室町くん、あっためて」 言われた言葉とともに舞い降りてきた口づけ。 ここは外なのだけれども、誰か見ているかもしれないのだけれども。 こんな夜に、俺たちのことを見つけることができるのは、 空を飛ぶサンタクロースだけだろうと。 俺は愛する人からの口づけを受け止めた。 愛する恋人たちに幸せなクリスマスを。 Merry Christmas!! |