君と共にいることの、幸せ。





+LOVE EMOTION〜zero・27〜





夏の日差しは強く、人々を照らしていた。

穏やかであった太陽の日差しが、随分と苛烈に。

人々を照らし始めたのは、そんなに前のことではなかったというのに。

まるで、太陽はその穏やかさを忘れてしまったかの如く。

じわり、じわりと侵食していく強さで、人々を焼いた。


亜久津は、空を見上げ、その凶暴なまでの太陽に、

僅かに眉を顰めた。


学校は、とうに夏期休暇に突入した。

確かにこの暑さではまともに勉強に励むということもできず。

肌を焼く暑さと、この、人々外へと誘う空の青さの前に、

抵抗すらできず。

無力な自分たちは、随分と簡単に、その誘惑に堕ちてしまうものだと。

思わずにはいられなかった。


夏の空は素直だ。

冬の空は、こんなにも汚れを吐き出す街の上でも、

澄んだ輝きすら見せる。

まるで寒さに凍える人々を勇気づけるかの如くに、澄んだ。


しかし暴君にも似た夏の太陽に惹かれてか、

夏の空は、酷く素直に、その穢れを体現してみせる。

これがお前たちのしてきたことなのだと、

まざまざと見せ付けられるのだ。

曇った青、揺れる街並み、うだるような暑さ。

どれも、これもみな、人々が行ってきたことの、跳ね返りにすぎない。


亜久津は一人、あの川沿いの道を歩いていた。

七月も終わりに近づき。

学校が休みに入ってから、それだけの日が過ぎたけれども。

こうして行動を起こしたのは、初めてで。


あの日。

河村に会いたいと。

そう思った日から、自分で動きだせばいいのだと、

分かってはいたのだけれども。


傷つきたくはないという、酷く庇護欲に駆られた思いと。

それに伴う自衛心が働き。

思うように体が動かなかったというのが現状。


しかし、体が動いたとはいっても、

その足は河村のところへ直接向かうのではなく。

こんな風に、小さな頃によく河村とともによく歩いたこの道を歩き。

偶然のように、河村が通りかかってはくれないかと。

そんな甘い考えを持って動いているに過ぎないのだ。



夏の日差しは容赦なく亜久津を照らし。

生きとし生けるものを全て。

焼き払ってしまいそうなほどの熱を有した太陽は。

まるで笑わんがばかりに亜久津の肌を焼く。


臆病と罵られればその通りだと答えるしかない。

偶然に、会えればいい。

そんな考えは臆病かもしれない。

けれど。

会えればいい、などという感情を凌駕するほどの、思いが。

期待という言葉ではなく、予感という言葉の方が的確に

その感情を意味するであろうという、思いが。


確かに亜久津の中にあった。



家を飛び出し、夏の空の下に駆け出せば、

きっと河村に会えるであろうという予感を元に。

亜久津はただ、笑う太陽の下、乾いた道を歩く。




早く、会いたい。

思いだけが先行をする。

夏の暑さにではなく、自らの想いに、焦れて、焦れて、

熱に、指先から体を侵食されてしまいそうだ。


亜久津が歩くたびに、乾いた砂が音を立てる。

その音ですら、亜久津自身を追い立てるかのようだ。


亜久津は、ひたすらに足を前へと運び。

つい最近、来たばかりの公園へと辿りつく。

昼間の公園は、夜の公園とは全く違う色を有していた。

どうしてこんなに表情が違うのかと驚かざるを得ないほど、

穏やかな。


亜久津は公園の入口に立ち止まり、中央にそびえる滑り台を見る。

公園の木々に遮られ、亜久津のいる位置からは太陽そのものを

見ることはできなかった。

夏の空とともに亜久津を笑う太陽は。

ずっと高い空から、ちっぽけの人間の中の、

たった一人の行動を見ては、更なる笑みを零しているのかもしれない。



亜久津は、空を見上げる。

そうしてゆっくり瞼を閉じる。

思い出すのは、三年前の星空、悲恋の恋人たちの逢瀬の夜。

空を埋め尽くさんばかりの星たちは、まるで彼らを祝福するかのように。

流れる星々に、寄り添う二人に、人々は自らの願いを託す。




笑う太陽の裏、今は眠りについている星々よ。

もし、夢の中でこの小さな人間の行動を見ているのならば。

願いを。

聞き届けてはくれないだろうか。




亜久津は、自分の思考に、ただ苦笑いを浮かべた。

どこかの安っぽい青春映画なのであれば。

ここで亜久津が彼の名を呼べば、まるで運命であるかのように、

彼が姿を現すのだろうけれども。


これは、現実。

夢でも幻でもない現実なのだ。


それでも。

待ち焦がれた反動か、体は焦れた熱に侵され。

素直ではないとよく言われる口は、まるで素直な言葉を吐いた。














「・・河村」














「・・亜久津!」












思いがけず。

けれどもあまりにも。

あまりにもタイミングのいい登場の仕方。

これでは運命のようではないかと。

柄にもないことすら思ってしまう。


道の向こうから走ってきた河村は、亜久津の傍へと駆け寄ると、

ひどく安心したような、それでいてひどく嬉しそうな顔をしていた。

亜久津は思わず、顔を覆って、笑い出す。



――本当は、目の奥が熱かったからなのだけれども。




「・・馬鹿だな、お前」


「え!?」



突然笑い始めた亜久津に、河村はただうろたえるばかり。

そんな河村に、また、心からの笑みと、計り知れない安堵が襲って。

亜久津はただ、泣き笑いのようにして、笑った。







偶然なんて信じてはいない。

けれど、偶然を必然に変えてしまうような、力が。

どこか自分たちとは違うどこかで働いたような。

もしかしたら、本当に。

笑う太陽の裏側。

今は眠る、闇夜を照らす星々が。

ちっぽけな自分に手助けをしてくれたのだろうかとすら思ってしまう。







そんな話をしてもきっと、河村は亜久津を笑わないだろう。

笑わないどころか、彼は。

きっと、穏やかに亜久津に微笑んで。




『そうだね、きっと、星の神様たちが願いを叶えてくれたんだ』




とすら言ってくれそうだった。

















やっと、河村に会えた。