+LOVE EMOTION〜zero・28〜 焦れて熱を持った指先が、焦げ付くのではなく、そこから、 じわり、じわりと、毒のような甘さを発した。 指の先の、薄い皮の外から生まれる想いに、飲み込まれそうになる。 「亜久津・・?」 思い描いていたよりも、僅かに低く。 そして、甘い声。 思いがけないそれは、指先で発した熱を煽り。 体の中を回る、甘い毒の循環を促す作用を持っているようだ。 河村は、まだ少し、慌てたように亜久津を見る。 そんな姿を見て、亜久津は一つ、笑みを零す。 大丈夫、だと。 彼が何を不安に思っているかなど、久し振りに会った亜久津には、 分からないというのが普通であるのに、 目の前に立つ、河村の。 視線が酷く真剣であったから。 大丈夫、自分はどこにも逃げない、と。 思わず口にしたくなったのだ。 「・・久し振りだな、河村」 そう、告げれば。 河村は初めて安心したかのように、満面の笑みを浮かべる。 「うん、久し振り・・」 甘い声は、脳をも侵し。 神経にまで入り込み、厄介にも亜久津の精神は乱れるばかり。 その発生源は、紛れもなく河村なのだ。 背は、少し高くなっただろうか。 クラスでも背の高い方である亜久津よりも、僅かに高い。 視線は、少し見上げるくらいで。 顔を上げ、満面の笑みを浮かべる河村と視線を合わせれば、 河村も、亜久津と視線を合わせる。 視線の交わる、瞬間。 チリ、と。 まるで砂糖菓子のような、光が。 どこか、甘い。 それでいて、ゆっくりと、柔らかく。 体の自由を奪っていくかのような。 甘美な誘惑。 そうして、再び二人の間に、七色ともつかない色の光が飛び。 それを見て、なんだか二人、同時に驚いて。 二人で思いっきり、笑ってしまった。 よじれそうになる腹を押さえて。 でも疼くのは、体のもっと上の方。 腹を抱えるのは、カムフラージュで。 どくり、どくりとほろ苦いけれども甘い痛みを押さえながら、 込み上げてくる幸せに、笑った。 「亜久津?」 「なんだ?」 「元気だった?」 「当たり前だろ。お前は?」 「俺も、元気だったよ」 「そうか」 そんな、他愛もない話をして。 気づけば、離れていた時間など、思わせぬくらいに。 まるで自分はずっと、河村の傍で時を過ごしていたかのように。 時はひどく、穏やかだった。 「亜久津、家に帰る途中だったの?」 「ああ。お前もか?」 「うん。図書館に行って、夏休みの宿題をしてたんだ」 そして気づけば、目の前に、河村の手が差し出されていて。 どこにも根拠はないのに、揺るぎない自信を持ったその右腕に、 亜久津はまた、口元に笑みを浮かべる。 「じゃあ、一緒に。一緒に帰ろう」 河村は、そう、言葉を紡ぎ。 差し出された右手は、手を繋いで帰ろうということなのだろうけれども。 「馬ー鹿」 流石に子供の頃と同じ、ことまではすることなどできず。 ぱちん、と。 河村の右手を軽く、はたいてやる。 「今更手なんか繋げるかよ」 口の端で、小さな頃、悪巧みをするときのような、笑みを浮かべる。 すると河村は、驚いたように右手を下げ、そうして顔を赤らめる。 「そうだね」 河村は、きっと。 潜在本能、無意識のうちに、右手を差し出してしまったのだろうけれども。 実は、亜久津も。 何も疑いなんかもせず。 ただ自然にその右手を取ってしまいそうになったということは。 プライドが許さないので、河村には言わないでおく。 この炎天下の中、手など繋いで歩いたら、 暑苦しいこと間違いなしであるのだけれども。 下ろされた右手を、思わず視線で追い。 少しだけ、惜しいことをしたと。 思ってしまったことも、もちろん胸の中に留めておく。 そうして、二人。 いつものように。 昔と変わりなく。 川沿いの、この道を歩き始めた。 白い雲、青い空。 存在を主張する蝉たちの鳴き声と、乾いた風。 聞こえる川のせせらぎと、 隣に感じる、お互いの、熱。 人を焼く、笑う太陽の苛烈な光も。 いつしか気にならなくなっていた。 |