+LOVE EMOTION 〜zero・9〜






「どうして、年に一回しか会わねぇんだろうな・・」




素直にそう、口にした。

川に隔てられた二人は。

一年に一回、会うだけで永遠に、

愛というものを続けていくことができるというのだろうか。

ただただ。

不思議に思った。




空を見上げ、輝く星々を見つめる。

あの向こう側に、今、恋人たちが幸せな時を過ごしているのだろう。

けれど、一年に一度しか会えないという理不尽さに

腹がたつことはないのだろうか。

自分ならば、川の向こうに大切な人がいればきっと会いにいく。

どんな困難を乗り越えても、大切なものであれば、

その身さえ滅んでいくことも厭わない。




亜久津の言葉に、河村も答えに窮したようであった。

空を見上げ、その星を掴むように手を伸ばした。




どうしてだろう。

その行為が、空にいる二人を祝福しているかのように見えた。




「確かに、大切な人に会いにいくことも大事なことなんだと思う」




河村は夜の空気を脅かさない声でそう言った。

いつも河村は、静かに言葉を発するのだけれども。

この空の下、星々が輝く中で。

恋人たちの逢瀬を邪魔するのを厭うかのように、声を抑えていた。

いつも聞くことのない河村の声に、亜久津は自然と耳を傾けた。




「だけど、好きだから会いにいけないってこともあるんじゃないかな」




河村の言っている意味は、難しいと思った。

けれどもその中にきっと重要な意味が隠れているのだろうと。

何度も頭の中でその言葉を繰り返しながら、空を見上げた。




人の感情とは何とも複雑で、そうして厄介だ。

それはもちろん、人を愛するという時だけではない。

人を憎むという時でさえ、感情とはひどく難しく、

・・そして厄介だ。




「河村・・」




呼びかけて、すぐに喋らずに間を置いた。

黙っている時間は不快ではなかったけれど、

柔らかさを有したその空間はひどくくすぐったく。

亜久津はそれを誤魔化すかのように、座る位置を僅かに変えた。




隣に座る河村は何も言わなかった。

まるで自分が、何かを話し出すのを待っているかのようであった。




「優紀と、親父が・・」




優紀がさきほど、亜久津に話したことをゆっくりと河村に告げた。

言葉にするたびに纏まっていく自分の思考。

心の中に篭っていたものが、吐き出される思いがした。

こうして言葉にできるということは、

きちんと頭の中で理解ができているということで。




受け入れられなかったのは、心。

両親の離婚――。

その前兆はあった。

亜久津もそうなることを薄々は感じていたし、それを望んでもいた。

愛のない家庭など、欲しくもない。

けれども。

いざこうして目の前に現実を突きつけられると、

まだ”子供”である心の部分が、悲鳴をあげた。




だけれども、きっと。

優紀にも、親父にも。

離れなければいけない理由があるのだと、そう考えることにした。

河村の言葉には、そう思わせるだけの力と、優しさがあった。




人間とは何とも複雑で、何とも厄介だ。




「・・そうか」




きっと大方のことは勘付いていたのであろう河村は、

ただ小さくそう呟いた。


何も問わない河村に、亜久津はぽつりぽつりと、

最近の家庭の状況を口にした。

河村は何も言わず、時々相槌を打ちながら亜久津の言葉を聞いた。




こうして、人に自分のことを話すのは何年ぶりであろうかと。

亜久津は輝く星々の下、そう感じた。




あらかた話をした後に、河村が静かな笑みを浮かべながら、

こう、言葉を紡いだ。




「・・人間って・・難しいな」




同じことを考えていた亜久津は、河村の言葉に口元に笑みを浮かべた。

まだ、自分たちは子供であるのだ。

分からないことなどたくさんある。

だから、分からなければ分からない。

悩むことも大切なのだと気がついた。

今自分は、どこか気の抜けた顔をしているのだろう。

そんな自分を思って、亜久津は再び僅かに笑みを零した。