愛してくれる想いが優しいから。 抱き締めてくれる腕が温かいから。 いっそのこと、自分以外の。 彼に触れる全てのものが、 消えてしまえばいいと。 +愛の深みに嵌るということ 真っ白で柔らかなシーツの波に押し倒されて。 指の1本1本をなぞるように手を繋がれる。 見上げれば、浮き上がる鎖骨から首筋にかけるライン。 滅多に見ることのできない素顔は自分だけに晒されていて。 思わず、息をのむほどの、衝動。 浮かぶ口元の笑みは常のまま。 けれど、目尻に浮かぶ優しい想いは、自分だけのもの。 喉元に降りてくる唇。 美味しそうに食べてくれるのだろう乾に、 早く飲み込まれてしまいたくて仕方がなかった。 特別教室からの帰り道。 窓から、外を見下ろしたところに、彼がいることに気づいていた。 けれど、大して気にも留めない風を装ったのはわざと。 見えているのにわざと気づかないふりをする。 しかしそんな手塚のことを乾はしっかりと承知しているから、性質が悪い。 どういう風の吹き回しかは知らないが、廊下を歩いていればふと、 不二が手塚を見つけて歩いてきた。 どうやら手塚を、待っていたらしい。 穏やかに微笑を湛えながら近づいてくる不二の後ろを、 さぁっと暖かな春風が通り抜ける。 窓のすぐ側には咲き誇った満開の桜。 開いた窓、ゆるやかに吹き付ける風に乗り、桃色の花びらがふわりと舞う。 もうそんな季節なのかと手塚は感嘆の思いで見つめる。 「手塚」 軽く手を挙げ、声をかけてくる彼の姿を、視界の端で捉える。 手塚の視界のほとんどを占めるのは、桃色の花びら。 ただ空気のようにゆるやかに舞うそれを、ただ視線で追っていた。 そんな手塚を、不二は吐息で笑った。 「随分余裕なんだね」 聞こえてきた声は、春風には似つかわしくはない、低い声。 まるで花びらさえ脅かしそうなそれに、手塚は眉を顰めながら不二を正面から見据える。 「もっと、嫉妬の炎でも燃やしてるのかと思ったのに」 「何故だ?」 逆に手塚が聞き返す。 「あいつが俺以外の誰かに靡くとでも思うのか?」 強気の手塚の言葉に、不二はくすりと笑みを零す。 会話の内容と暖かな春風が、酷く似つかわしくないと感じた。 「・・どうしてそう言い切れるの?」 そうわざわざ問いただす不二に、手塚は眉をしかめる。 言わせたいのだろうか、手塚に。 「あいつは俺以外では勃たないからだ」 はっきりそう告げてやると、不二は今までの雰囲気を全て壊すかのように声を上げて笑った。 「・・だってさ、乾。ほんと?」 その言葉に驚いて振り向けば、柔らかな春風とともに、聞きなれた足音。 「ああ、もちろんでしょ?」 ね、手塚?と。 手塚の肩を抱きながらそう言われ、当然だと頷く。 「誰にも渡さない」 その言葉とともに、桜の花びらがさぁっと手塚の前を駆け抜けた。 春の嵐。 熱を帯びた唇が、手塚の鎖骨をなぞる。 性急に触れる指先は、胸の飾りを弄り、脇腹を辿って腰に触れる。 思わずあがる嬌声は抑えることもできず。 聞こえる自分の声が嫌で、手の平で口を覆えば、 やんわりとそれを留める乾の手。 黒い瞳の中に欲の光を有した乾と視線を合わせれば、口の端に浮かぶ笑み。 赤い舌で乾いた唇を一舐めする彼から視線を外せずに。 ゾクリ、と背筋に走る熱。 体を駆け抜けたそれは、鼓動を跳ねさせ、甘い喘ぎを生む。 潤んだ視界に彼を見上げ、息をすることが困難で僅かに仰向けば、 首筋にかぶりつくように、歯を立てられる。 痺れる痛みが恋しく。 甘えるような彼の仕草がいとおしく。 気だるい両腕で乾の頭を掻き抱けば、彼には珍しく、 まるで食いつかれるように激しく、性急に体を進められる。 連れてこられたのは、裏庭の桜の木の下。 誰が来るとも知れないそこに、けれども気にすることなく体を寄せ合った。 二人とも、随分と性急に体を求めていた為、上は全く乱れのないまま。 乾は桜の木の下、座って木に背を預け、下を寛げただけの格好。 手塚はしたを脱いだだけの格好で乾の上に跨って、腰を落とした。 「ん・・・・んぁ・・・・乾っ・・・!!」 学校であるということ。 晴れた空の下であるということ。 そんなことを忘れてしまうくらいに貪欲に乾を欲する。 下から突き上げられるリズムに翻弄されながらも、手塚も必死で腰を振る。 桜の魔力のせいにして、乾の全てが欲しかった。 「はぁ・・いぃ・・・・んっ!!」 「・・手塚!!」 下から激しく突き上げられる。 ぎゅっと腰を掴まれて、きっと跡がついているだろう。 乾もこれだけ自分のことを欲しがってくれているのかと思うと、嬉しかった。 「・・イく・・乾・・・!!もう・・っ!!」 必死で促すと、乾は手塚の中心を擦り上げる。 体の浮遊感とともに、びくりびくりと、乾の手の中に白濁を吐き出した。 そして震える体の中に、乾の奔流が叩き込まれるのを感じ、 安心をしてぎゅっと乾の背を掻き抱いた。 すると乾も手塚の頭を抱きこむように抱き締めてくれた。 そうして息も継げないほどのキス。 「手塚」 頭上には、咲き誇る春の花。 見渡す限りの、青空。 そんなものは要らない。 ただこの人間の全てが手に入ればいい。 乾の唇が耳に触れて、そうして小さく噛む。 かりっと小気味よい音が響いて、熱い吐息が耳を侵した。 「・・あんまり挑発しないでよ。 そのうち、手塚を閉じ込めて何処にも行けなくしちゃうよ?」 目論見どおり、だと思う。 手塚は乾の肩に顔を埋めて、小さく笑った。 自分だけを愛してくれればいい。 乾を取り巻く全てのものは消えてしまえ。 閉じ込めてくれても構わない。 だってそれが自分の望むことなのだから。 春の、嵐。 手塚と乾の周りに、さぁっとピンク色の花びらが舞い降りた。 |