キレエなものは嫌い。 綺麗なものは嫌い。 だって。 綺麗なものを見ると。 汚い自分を思い出すから。 +シャボン玉+ フワリ、フワリと。 どこからか漂ってきたシャボン玉。 太陽の光に照らされて。 大きさのまばらな たくさんのシャボン玉は。 キラキラキラキラ、輝いている。 ふと、海堂は道端の公園に視線を向けた。 そこには、小さな女の子が二人。 赤いスカートを着た女の子と。 オレンジ色のTシャツを着た女の子が。 ベンチの上に立って、楽しそうに、シャボン玉を吹いていた。 そこから作り出される、たくさん、たくさんのシャボン玉。 穏やかな風に乗って、それは海堂の方にゆっくりゆっくりと流れてきた。 真っ白の太陽の下で。 大小さまざまなシャボン玉は。 赤・橙・黄色・緑・青・藍・紫と。 さまざまに色を変えて。 楽しそうに空気の中を泳いでいる。 海堂の傍にやってきたシャボン玉は。 擦り寄ってくるかのように、海堂に寄ってきたかと思うと。 真っ黒な海堂の学生服に触れて。 パチンと あっけなく 消え去ってしまった。 本当に あっけなく。 今まで七色に輝いていたはずの 宝石かと見紛うほどのシャボン玉は。 呆れるほど早く まるで何もなかったかのように静かに。 その姿を消した。 アナタは汚い俺は嫌いですか? 次々に、海堂の元へやってきては。 その黒い黒い学生服へ触れて。 パチンパチンとその姿を消していくシャボン玉。 綺麗なものは 汚れたものに触れて。 その生命を途切れさせ。 見なくても知っていた事実に。 知っていたけれども見たくもなかった事実に。 海堂は口もとにうっすら笑みを浮かべた。 綺麗なものは嫌い。 汚い自分を思い知るから。 海堂は。 再び自分に寄ってきた 綺麗な綺麗なシャボン玉を。 その手で。 無残に。 割った。 海堂の右手が ゆっくりと空を切る。 触れてしまえばなんとも実態がなく。 なんとも脆い。 なんて。 脆いんだろうと。 その綺麗さに。 何故だかふと。 泣きたくなった。 「う・・ぁ・・・」 腹の中で先輩が蠢く。 先輩の熱が体の中を満たして。 それを逃すまいと。 海堂の肉が 乾自身を誘い込む。 「あっ・ん・・・あぁ・・」 意識をせずに漏れる声。 乾の上に馬乗りになった海堂は。 恥もためらいも 元からなかったもののように。 淫らに腰を振る。 肉と肉とが触れ合う音に。 狂わされるほどの愛を感じながら。 身を乾の上へと。 沈めていく。 不規則に蠢く 乾の腹を見ながら。 喘ぎ声をあげる度に。 汗が飛び。 髪の毛が震えた。 「薫」 脳の中に突然入り込んできた優しい声。 海堂はふと、意識を戻す。 「どうしたの?」 乾の指が海堂の瞼の下に触れ。 そしてそっと目の線をなぞる。 「何か悲しいことでもあった?」 どうやら。 「薫」 気がつかぬうちに。 「薫」 泣いてしまっていたようだ。 「薫」 海堂は、乾の問いに僅かに首を振る。 「・・そう」 どうやら。 その答えに不満であるらしい乾は。 海堂を下へと。 体勢を入れ替えた。 「本当に?」 眼鏡のない 乾の素の瞳で見つめられる。 切れ長で、真っ直ぐなその瞳は。 海堂の視線だけではなく。 心まで、捕らえて離さない。 「本当に?」 言い終わるか、言い終わらないかのうちに。 乾が海堂の中で。 動きを再開する。 一番感じやすいところを擦り上げられて、 海堂は 悲鳴にも似た嬌声を上げる。 「本当に?」 腰を上下に揺らされて。 中をぐちゃぐちゃになるほど掻き回されて。 薄れ行く思考の中で。 今ならば、口に出しても、と。 操られるかのように素直な口が。 言葉を紡ぎだす。 「アンタは・・」 言葉を紡ぐごとに喘ぎ声がその中に混じる。 呼吸もひどく激しく。 空気を震わすその声は。 やはりひどく卑猥だと思った。 「汚、い、俺、は、嫌、い・・・?」 そこまで言い終えると。 乾は更に深く。 海堂の中に侵入してきた。 「なんだ」 目の前の乾が。 海堂の心を鷲づかみにするほど。 壮絶に妖艶な笑みを浮かべて。 「そんなこと」 乾は一旦動きを止め。 海堂の頬をいとおしげに撫でる。 「海堂は」 優しく髪を撫でられて 「誰よりも」 顔中にキスの雨を降らされる。 「誰よりも」 そうして息も継げないほどのキスをくれ。 「綺麗だよ」 最後に 海堂が。 一番欲しい 言葉をくれた。 心の中に漂っていた。 真っ黒い色をした、 光を通さないシャボン玉は。 いつしか音も立てずに。 静かに その姿を消していた。 |